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「なにこれ?」
春奈は掃除機の電源を切ることも忘れ、目の前の光景に呆然としていた。掃除機をかけながら何気なく大輝の勉強机の引き出しをあけた。先日お菓子が入っていた場所だ。
きっとお菓子をもらってはいけないと、相手に大輝が言ったのだろう。だからその代わりに、おはじきをくれたのではないかと春奈は思った。引き出しの中にある見覚えのないおはじき。拾ったのかもしれない。そんな考えも嫌な予感に簡単に塗り潰されてしまった。
自治会長の御手洗とは、道で会った時にでも話そうと思い一日が経っていた。その一日さえ今は後悔に変わっていた。
「なるほど……」
翌日になり、春奈はおはじきを持って御手洗の家を訪ねた。夫婦で真剣に話を聞いてくれたが、二人の表情からは血の気が引いているように感じた。
笑い話ではすみそうもない雰囲気に気持ちは急かされたが、春奈は黙って御手洗の言葉を待った。
「小川さん。十五年ほど前に、この団地で子供の失踪事件があったのをご存じですか?」
夫婦で頷き合うと、御手洗が口を開いた。
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