子供の噂

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 春奈は選択に迫られた。大輝と女の子は手を振って別れた。家に帰る大輝と、おはじきを持った女の子。状況からしてどちらが危険かと言えば、おはじきをお菓子と交換しに行くのであろう女の子だった。しかし大輝一人で家に帰すのも安心ができない。  決めかねた春奈だったが、大輝の背中に向かって歩き始めた。すると大輝が手を振って走り出した。その先にランドセルを背負った男の子達がいた。どうやら友達と合流して、しばらく遊んでから帰りそうだ。大輝は合鍵も持っているし、家まではいつも一人で帰ってくるのだ。今回が初めてなわけではない。比べて女の子は、今まさに危険へと近づいている。そして危険人物を特定できるチャンスは、今後二度とないかもしれない。春奈はいち早い安全の為に人物の特定をしようと思い直し、女の子に付いてゆく事にした。  女の子に気付かれないようにしながら、傍から見られても怪しまれないようついてゆくのは中々に大変だった。賢治が犯罪者相手にこんな事をしているかと思うと急に会いたくなった。 「あっ」  一瞬だった。ほんの一瞬気をそらした隙に、女の子を見失ってしまった。同じ団地なのに、まったく違う場所のように思えた。枝道に目を凝らし、近くの棟に入ったのだろうかとドアの音に耳をすました。しかし女の子の行方は知る事ができなかった。  家から駅とは反対側にあたる地域は来たことがなかった。しばらく歩きまわってみたものの見当などつけられる訳もなく、地域番号を覚えると春奈は大輝が待つ家に急いで帰った。
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