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暗闇の中で
「なんで俺がこんなガキ……いくつだよこいつ」
「つべこべ言うな。お前が一番適任なんだよ」
「そうやってすぐに雑用押し付ける!」
「まあまあそう言うなって。かわいい顔してんじゃん。ただ近づくだけでいいって。観察だけしてろってさ」
「観察だけ? 絶対ウソ。どうせいろいろ増えてくんでしょ」
「この話はこれで終わりな」
「あっ、ちょっ」
「俺より先に新車買ってもらったろ。じゃあな」
「……はぁーっ。クソッ」
「カミジョウ。ウォリアーは?」
「……まだ来てないみたいです」
「そうか。一人で進められる分だけやっておいてくれ」
「はい」
青白い蛍光灯が壁全面に反射する無機質な研究室。普通の人間には薬品の独特なにおいがするらしいけど、それにも随分慣れた。この場所でスコープを四六時中覗いていたらにおいなんて気にならなくなるものだ。
「また一人でやってるよ。いつの課題だっけ?」
「成績優秀だから相方いなくてもできるんだろ」
「ねぇさっき肩に手ぇ置かれてなかった?」
培養液の状態が良くなかったのかレンズ越しの細胞はめちゃくちゃで、観察できるレベルのものではない。
「贔屓されてるよね。絶対」
「聞こえるんじゃない?」
今週中に提出期限を迎えるごく簡単な研究なのに、なぜだかうまくいかない。仕方なくシャーレの中の培養液を破棄する。また一からやり直しだ。クスクスと嫌味な声がそこらで聞こえて、俺はまた席を立った。
あの日兄ちゃんが突然いなくなった。俺に残されたのは、混乱。当たり前だ。あんなに慕っていた兄ちゃんが、忽然といなくなったのだから。
真っ先に頼ったのはもちろんボスだった。俺には、頼るのはボスしかいなかった。でも事態はなにも変わりはしなかった。兄ちゃんがいなくなって、俺がどんなに泣き喚いても、その辺の物を目の前で壊して暴れ回っても、ボスは顔色一つ変えず俺を落ち着かせるように何時間でもかけて論点をずらしながら諭した。そのことにますます俺は混乱し、反発した。失ったのは、兄ちゃんだけではなかった。
なぜ、なぜ?
ボスのことを信用できない。俺は家に塞ぎ込むようになった。それと同時に、心までも。兄ちゃんの教え通り進学したけど、当然のことながら何年か留年した。
俺になにも告げずに突如いなくなるなんてことがあるのだろうか。いや、そんなことあるはずがない。兄ちゃんにだって俺の存在はそれなりに大きかったはずだ。そうでなければ、ずっとあんなこと……。
どうしてボスはなにも一言も教えてくれないのだろう。どこにいるのか、なぜいなくなったのか、俺の疑問はもくもくと部屋に立ち込める煙のように日に日に黒く膨らんでいった。俺が探そうにも、兄ちゃんは本当に忽然と姿を消したのだ。手がかりは、なにもなかった。兄ちゃんがいなくなって早くも一年が過ぎようとしていた。
もしかして、ボスもなにも知らないのでは? 言えないのは、なにも知らないから?
いや、ボスは兄ちゃんを信頼していたはずだし、やっぱり兄ちゃんが何も言わず俺を置いていくなんて考えられない。なにかあったに違いないけど、相変わらずボスは忙しいの一言で俺を遠ざけた。いや、一言ではなかったか。
創は、元気にしているから。
ようやく耳にした兄ちゃんの様子。しばらくボスを見つめていたのをよく覚えている。そう言われて俺が納得なんてする訳がないのに。兄ちゃんのことを少しでもいいから教えて。それの答えだったのだろう。兄ちゃんは元気にしているだって? ボスへの信頼が不信へと変わった瞬間だった。家にいても、兄ちゃんだけがいなくなった小綺麗にされている部屋はそのままで、余計辛かった。世界はまた、俺を一人ぼっちにした。
「ウォリアー。お前、研究室に来ないなら俺とのチーム辞退して。すごく迷惑だから」
ガヤガヤと生徒でごった返す昼時の食堂。長髪の金髪を後ろで結んでいる、遠目でも目立つ長身から伸びる頭。気の合う友達なのか、俺が話しかけた男は数人の行儀の悪い輩の輪の中にいた。スペースを空けないようにしているのだろう、昼飯を各々広々と並べている。テーブルを囲む目的のそいつに向かってやや大きめに声を張ると、たくさんの目が俺に一斉に向いた。
「え、俺?」
ここは食事のための場所のはずだ。なのに、誰かの香水がキツい。
「そうだよ。お前が俺の足引っ張ってる。俺まで留年したら許さない」
「おぉー、怖ぁ。言われてんぞぉ」
ニヤニヤと取り巻きがウォリアーを好奇の目で見ている。当の本人は俺の台詞に一瞬だけ目を丸くして、今日は行くよ。と言った。
「無理してあんな研究室行くからー。真面目ちゃんに目ぇつけられてんじゃねぇか」
「無理なんかしてないよ。あの時は他の人達の成績が悪かっただけ」
食べ物を口に入れたまま取り巻きがくちゃくちゃと喋った。また内輪で雑談を始めだしたこの空間が嫌で、俺はくるりと踵を返した。
「あっ、待って」
なに? と言って振り返りウォリアーを見ると、奴は、午後は何時からだっけ、研究。と俺に間抜けなことを聞いた。少しの間がその辺を包んだ後、バカな輩の、下品な、大きな笑い声がどっと響く。俺は冷めた目でウォリアーを一瞥して、なにも言わずにさっと食堂から抜けた。
アレン・ウォリアー。
ふしだらで不真面目で、遅刻魔で成績は最下位。何年か留年しているようで、連れの奴らも見た目からして遊んでそうな、意味もなく騒がしくする俺の嫌いなタイプ。教授も、何も成績の上位と下位を組ませなくたって良かっただろうに。午後からの研究は周りの憐れむ目がいつものことながら俺の居心地を悪くさせた。それでも、早く課題を終えなければ。早いやつは俺よりも二つも三つも先の課題に取り掛かっていた。
「あれ。遅いじゃん」
今日も一番に研究室に着いたと思ったのに。
俺は返事をせず、どす、とバッグを自分の机の側に置いて、ペンケースと昨日までやっていた研究のノートを取り出した。
「てかさー。ひどくない? 午後からは何時か聞いてるのに無視するなんて。おかげでまた欠席になっちゃったよ」
研究のこと以外でこいつと話をしたくない。
俺は広めのテーブルに必要な物を並べながら、ただひたすら独り言を聞いていた。
「他の奴らは俺に時間帯教えてくんねーの。意地悪だよな。ま、俺には秘密兵器があるんだけどさ」
「でさぁ、あそこのさー、食堂の。ハムサンドがイマイチなんだよね。食べたことある? マヨネーズが少なすぎっていつも言ってるのに」
「それでさぁ。午前の授業は俺選択なわけ。で、いつも起きられないからこないだも単位落としちゃってさー」
いつまで一人で喋っているのだろうか。早く自分の分の細胞の映し絵を出して欲しいのだけど。
「ねえ。聞いてる?」
「映し絵。明日の九時までなんだけど。こないだも言ったけど、今日出せないなら自分から俺とのペア辞退して」
「えっ、あっ! 映し絵ね! できてるよ。ほら」
「……」
「カミジョウのは? 見せて」
正直に言うと、驚きしかなかった。出せない自分のノートを、ウォリアーが出したそれに動揺しながらただひたすら見つめた。てっきり俺と同じでできていないと思ってたのに。
「? どうしたの?」
捲れないノートが悔しい。こんなふうに堂々と見せられたら。
「見せてよ」
「……お、俺……できて、なくて」
「えっ?」
奴がぽかんと口を開けた。本当に不思議だろう。新しい学年が始まって、毎日きちんと出席してるのに、いまだにこんな簡単な課題が出せない状態だなんて。
「えっ。もしかしてまだできてないの?」
「……」
俺は、こく、と頷いた。
「そっかぁ。今からやれば間に合うから、急いで準備しよっか」
後ろめたい俺とは対照的に、ウォリアーは白衣を着て手を洗い、テキパキと動き出した。俺はそれをぼうっと見ている。
「間に合わない、かも」
なぜだかうまくいかない課題に、内心では単位をもらえないかもと焦っていた。提出は明日の朝なのだ。そんな俺を他所にウォリアーは、にこ、と笑って言った。
「大丈夫だよ。俺コツ知ってるんだ。知ってる? 今日一日中ここにいたらうまくいく。それがコツだから」
「は……? なにそれ……」
「さ。早く着替えて。手っ取り早く口の中の細胞でいいよね? 俺やったげるよ」
「じ、自分でする」
「それでうまくいってなかったのかもしれないよ? 鼻は痛いしね。口でも十分だから。ほらほら」
ウォリアーが何を言いたいのかわからないまま、とりあえず俺はいつも通り白衣に袖を通した。前までは自分で鼻の粘膜の細胞を取っていたけど、痛いしくしゃみは出そうになるし、確かにそれでうまくいってなかったのかもしれない。ウォリアーに、ここに座って、口、開けて。と言われ椅子で対面になる。俺は渋々口の中を奴に晒した。長い綿棒を手にしたウォリアーが背を丸め上目遣いで俺を見て、慣れた手つきで上顎の粘膜をこそぐように強めに撫でた。
「ん。我ながら上出来」
「一日中ここにいるってどういう意味」
ウォリアーがシャーレを手に取る。俺を見ないまま、成功するってことさ。と言って、綿棒を培養液に丁寧に擦りつけた。かぽ。と蓋をしてまだなんの変化も起きていないそれを下から覗き、鼻歌を歌っている。俺はもやもやした気持ちのままウォリアーの言う通り研究室で一日を過ごした。言葉少ない俺とは違って、ウォリアーはまるでマシンガンのように喋り倒していたけど。
「おはよ。ほら、できてるよ」
次の日、またもや俺よりも先に来ていたウォリアーが昨日のシャーレを俺に見せて言った。
「成功だね」
皮肉でもない、自分のことのように笑う奴に、俺はそれを返せなかった。
「あとはこれを写して提出っと」
「……」
「今時紙で出せって珍しいよなぁ。古い教授なんだから」
——なんだよ。クラス最下位の落ちこぼれじゃないじゃんか。
どこかで見下していた自分に少しの後悔が見え隠れした。ずっと結んでいた口を僅かに離す。
「……ありがと」
「え? なんか言った?」
「いや、別に……」
どうしてたった一日で俺にできなかったことが奴にできたのか知りたい。さして俺と手順が違ったようには見えなかったのに、こうも簡単に……。
「なんで失敗しなかったの。俺、いつもは……」
「なんでって……ほら、邪魔する奴がいなかったろ?」
「は……」
何年この研究室にいると思ってんだよ。俺先輩なんだから。ウォリアーはそう言って、楽しそうに呆れた顔をした。
「……、……」
——ああ、そうか。そういうことだったのか。
つまらない人生が、元々曇っていた人生が、あいつらのせいでまたどんよりと俺の中に陰りを見せた。まさか、自分が標的になっているなんて思ってもみなかった。今時そんな子どものようなことをする奴がいるのかとため息をつく。もう少し日が経てば皆成人するというのに。考えれば考えるほど、他者との関係を一切断ち切りたくなる。俺の今のこの苦悩などわかるやつは一人とていない。俺の中のどろどろの感情が、ヘドロのように真っ黒く醜くまた積もっていった。
「ねえ。連絡先教えて。次の課題とは別の、やりたいことあるんだ、俺」
その手順をノートに書き出している。チラと見ると、俺に話しかけてきた奴の手が止まり椅子ごと俺に体を向けた。
「それと連絡先とどういう……」
「卒論だよ。今からやっといたら有利だから。他の奴らは今の課題が簡単とか思ってんだろうけど、とっととその先行ってようよ。二人で取り組んだ方がいい卒論が書ける。きっとね。片方の進捗状況も教え合えるしさ」
同じ研究室なのに?
「だから、それとこれとなんの関係が……」
「え? ああ、連絡先? 単に知りたいだけ」
「……」
「そんなに俺が嫌い?」
しばし見つめ合う。ウォリアーが携帯をバッグから取り出して、教えてよ。ともう一度俺に言った。
「持って、ない……」
「え?」
ウォリアーは、こないだの食堂で見た顔と同じ顔をした。それもすぐに頬が緩んで、俺そんなに嫌われてんの⁉︎ と笑いながら泣く真似をした。
「う、嘘じゃなくて」
「……本当に持ってないの?」
「うん……」
連絡先を聞かれたことなんか初めてだ。情報なら家にある兄ちゃんが使ってたパソコンで十分だし、外に出かける時は本を読む癖がついている。知り合いなんてボスと大家ぐらいだし、そのボスだってふいにアパートに来るだけの一方通行だ。
「これ使いやすいよ。買いに行く?」
「い、いや……いい。いらない。必要ない」
意地ではなく、実は契約する金がないなんて言えなかった。大学はボスが行かせてくれているけど、俺が自由に使える金は微々たるものだ。携帯に回せる余裕などない。
「……そっか。じゃあ買ったら教えてよ。俺休日も来ることあるし、なにかわかんなかったらすぐに聞きたいし」
「お前の方が上手くできるよ。こないだみたいに」
「……たまたまね」
あ、と思ったがもう遅い。俺、嫌な言い方した。今。皮肉なんかみっともない。久しぶりにボス以外の人と長く話したせいか、どうしてだか最低限のコミュニケーションを取ることさえ苦手になってしまったみたいだ。
「カミジョウ」
「え?」
二人しかいない研究室で、俺の名を呼ばれた。面と向かって。
「名前。教えて。ファーストネーム」
「名前……」
「俺は、アレン・ウォリアー」
「し、知ってる」
「そっか」
自分の名を言うだけだ。なんでこんなにどぎまぎしなきゃならない?
「……か、上條、奏」
「カナデ……。いい響きだね。カナデ、か。アジア系なんだろ? 漢字? ってのがあるんだよね、確か」
ウォリアーが自分のノートにぐちゃっと文字を書いた。
「あー上手くいかないな。確かこんなふうに見えたんだけど……」
ゲジゲジした虫のような、文字とは言い難い線。
「難しいね。漢字」
「こっちではローマ字使ってるから……漢字は、こう書く……」
ウォリアーが書いた隣に、さらさらと奏の字を書いてみせる。その様子にウォリアーは大袈裟に驚いてみせた。
「すごい! かっこいい! 漢字!」
「別に、使うことない、かな」
「他には? 他にはなんかない? 漢字!」
「え……っと、ファーストとセカンドだと、こう……」
『上條奏』
「おおー! すごいよ、カナデ! もっと! もっと教えて!」
「使う時ないだろ……」
「モテるよ! 俺カンジ書けるんだぜ、なんて言っちゃってさ!」
「モテる……」
確かに珍しいのは珍しいだろう。俺だって久しく漢字を使っていなかったことに自分で驚いている。
「ラブは? ラブはどう書く⁉︎」
「ラブ……愛、かな」
「……、おっ、おぉー⁉︎ ねえ、なんでこんなにごちゃごちゃしてるの⁉︎ ……あっ、ラブだから⁉︎ そうだ、そうに違いない! 他は? 他は⁉︎」
「他って言われても……」
この後も、ウォリアーは俺がノートに書く文字に大興奮だった。たかが漢字でこんなにテンションが上がる人間がいるのかと感心さえする。
「これ……俺の宝物にしよっと」
「そう……」
自分のノートをニコニコしながら見つめている。ウォリアーは空いたスペースに不器用な手つきで俺の真似をして、嬉しそうにぐちゃぐちゃな漢字を書いた。
「こうかな、いや、こうか……うぅん……」
そういえば、他人の笑顔なんか何年ぶりに見たっけ。兄ちゃんでさえも大笑いすることなんて記憶にないから、こんな時どうしたらいいのかわからない。ひたすら文字を書いていたと思ったら、急に俺の方に体を向けて言った。
「すごいね! カミジョウは!」
「いや、別に……」
漢字が書けたところで何の驚きがあるのだろう。いや、珍しいのか。俺にとってはなんの不思議もない能力だけど、ウォリアーにとっては。
「もっと教えてよ」
「あ……う、うん」
あれ、この部屋こんなに明るかったっけ。蛍光灯、温白色に替えたのかな。なんだか心臓が跳ねてる気がする。ああ、ウォリアーがうるさいせいだ。たかが漢字が書けるだけで、こんなに大はしゃぎするから……。
「本当は書き順っていうのがあって……」
「ふんふん。……へぇーっ。だからカミジョウのはきれいなんだね」
「慣れれば、別に、誰でも……」
「ふふ。少しは俺への警戒心、解けた?」
「えっ……」
奴はノートを見つめながら、俺に聞いた。少し落ち着いた様子に、俺は耳を傾ける。
「あ、わざとうるさくしてたわけじゃないよ? でも俺、もっと仲良くなりたくてさ」
「……そう、なんだ」
「奏、って呼んで、いい?」
「……」
『奏』
「えっ、えっ?」
「あっ……な、なんで」
ポロポロと粒が頬を転げた。兄ちゃんが何度もその名で俺を呼んでいたのを思い出したからなのか、ボス以外で名前を呼ばれたのに驚いたからなのか、わからない。
「い、嫌なんじゃ、ないよ」
慌てて白衣の袖でそれを拭う。でも止める方法を俺は知らなくて、ひっきりなしにそれが流れた。俺が書いた文字と、ウォリアーが書いた下手くそな線がぐにゃりと曲がって戻らなくなってしまった。嫌じゃないとなぜ否定したのだろう。自分でもよくわからない。ただ狼狽えるばかりの俺に、ウォリアーはなにも言わずにそっと自分の腕を伸ばした。その手は俺の震える肩を包むように置かれた。
「……っ、ご、ごめ」
「謝らないで。泣きたい時もあるさ」
誰でもね。と言って、それ以上なにも言わなかった。
「う、……っ、……っぅ」
他人に飢えていたのだろうか。いや、信頼してたボスも、研究室の奴らも、俺にとってはドス黒い塊の他人でしかない。兄ちゃんの言い残した、人のためになることを、の言葉だけで生きてきた。それだけが支えだった。できるだけ人と関わりたくなくて、自ら線を引いてここまで来たのに。だが今はどうだ、この有様は。自分より下に見ていたウォリアーに肩を抱かれて泣いているなんて。それも、振り解きたくなる気分じゃないなんて。
俺って意外と寂しがりやなのかもしれないな。
兄ちゃんが俺から消えた日。これ以降、俺の人生は真っ暗だ。いい得も知れない不安や絶望は、その暗闇を盾にして自分を守っていくしかないだろう。それでしか、自分を守ってやれない。
神様は信じてないし、サンタも今はさすがに信じてない。けど、けど……その代わり、全身くまなく光を浴びせるとびきりの太陽を俺に寄越した。運命なんて、あるわけない。兄ちゃんがいなくなったのは運命ではないのだから。
「俺も、アレン、って呼んでよ。奏」
だから、この太陽も運命ではない。
アレン。俺にとって心からの大切な人。俺の、恋人だった人。
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