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プロローグ
そのホテルの部屋から下に広がる景色を見下ろすと窓の外は超高層ビルがいくつも建ち並び、東京を呑み込み始めた西の空の端っこの辺りの、その薄墨色と青と、オレンジの混じったコントラストの夜景は目を見張るほど綺麗だった。
はるか下の方で小さく見えているテールランプがどこまでも連なり、もうすでに夜の帳がおりてすっかり暗くなった都会のビルの間を川のように流れていく。
赤いランプが空のかなり高いところでいくつもチカチカと点滅し、その暗闇のなかで障害物になりうる高いビルがそこにもあることを静かに知らせている。
さっきから頻繁に空を行き交う飛行機がビルの向こうから現れてはあちらに消え去っていく。
あんな風に空を飛べたらどんなにいいだろう…。
太陽が完全に地平線に沈むと真っ黒な闇が、この賑やかな町にようやく夜を連れてくる。
眠らない夜の町にはネオンが溢れだし所々あやしく光る。
そんな夜景が広がる窓から外を見下ろせるその部屋の、真っ黒なガラス窓に映るのはラグジュアリーで大きなキングサイズのベットの上で乱れ絡み合う二つの影…
*
「アァァ…、やめて。そこ…」
「え?やめる?」
「いや、いやじゃ、ない。あ、ダメ…」
湿った音がホテルの部屋に響く。
肌同士の当たる音に合わせて二人の甘い吐息がリズミカルに洩れる。
熱と熱が交ざりあって、二人の体を包み込み、周りのもの全てを溶かしてしまうかのようだ…。
いっそこのまま二人で溶けあって一つになってしまえたらどんなにいいだろう…
鍛えぬかれた彼の大きなその逞しい体。この体でいったい何人の女たちを虜にし、こうして喘がせてきたんだろう。この顔でこの雰囲気だ。絶対モテないはずはない。そんな、ゲイじゃない彼が俺を抱く。
あれ?だけどなんで俺たちこんなことになったんだっけ…?そう思ってるのは俺だけじゃない。きっと彼が一番、そう思ってる…。
男の色気を漂わせるその筋肉質のしまった体に惚れ惚れしながらその感触を手で確かめ、彼の背中の張り出した筋肉をゆっくり指先で辿る。
こみ上げてくる快感に溺れそうになると、覆い被さるその上半身に腕を絡めなんとか必死にしがみつきその盛り上がった肩甲骨に爪を立てる。
するとまるでそれに反応するかのようにグイっとさらに奥まで腰を進めて来る。そのまま彼に下から何度も激しく突き上げられ揺さぶられて意識が飛びそうになる。
目を開けていられないほどの快感が俺を包み込む。
少しだけ目を開けると、視線を絡める事もできないほどの彼のその瞳の眩しさに目が眩む。
見たこともないくらい綺麗な顔が俺の上で悶え、蕩けた目で俺を見おろしてくる。
激しく腰を揺らしながら俺の唇を貪るようにして、しつこいほど吸い付いてくる。
さっきまでの彼とは別人みたいなその激しさに、思わず百戦錬磨の俺も戸惑う。
この時間がこの先もずっと続けばいいのに。
この夜が明けたら。明日この彼は、俺の前から…
いなくなる…。
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