エピローグ

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エピローグ

 月曜日。  とうとう俺たちの最後の夜が明けた。  二人して目を覚まし、目が合うなりどちらからともなくまた名残惜しそうに朝からキスをする。  最初で最後の俺たちのデートは夢のような時間になった。  離れるのが惜しくなるほど一晩中、彼の腕の中で溺れた。  泳げない俺を、息ができないくらいに彼が溺れさせた。  もうお別れだって言うのに。  最後の夜、俺たちは今までにないくらい求め合い、今朝もこうして起きるなりお互いに思い出したようにまた求め合った。  チェックアウトギリギリまで無言で貪りあい、何度も達した。  そうしていつもみたいに何事もなかったような顔で向かい合って朝食をとり、俺たちはそのままホテルでそのまま別れた。  俺はこの後、普通に大学の授業だ。彼は通常通り会社に出勤し、最後の残務処理をして、もといた場所に帰っていく。  彼は今日、予定通り俺のもとを去っていく。 『最後だし。発つ時、見送りするよ…』  別れ際はあえて軽い口調で別れた。この苦しい心のなかを知られたくない。  最後までビッチで屑な俺のままでいさせて欲しかった。  涙なんか見せたくないから。  だってこの彼に本気になった俺が彼に拒まれたら、俺は多分、もう二度と立ち直れない気がするから。  もう、誰とも本気になんかならないって決めたんだ。だから最後も…。今まで通りの俺でいたい。  だからあえてそう言って笑顔で軽く別れた。後悔はない。最後にいい時間を過ごせた。やっぱり離れたくなくなってしまったけど、もう今さらどうしようもない。  いいんだこれで。めったに出会うことのないような極上のイケメンとの最初で最後の最高の夜。屑な俺にはもったいないくらいの最高な夜だった。  だから、最後は笑顔で見送ってやろう。  新幹線の出発の時間を教えて貰った。ホームで笑顔で見送りすると決めた。  見送りの時間は夕方。本当にそれが最後のお別れだ。だから、笑顔で送り出してやろう…。綺麗さっぱりこっちからちゃんと別れてやる。 *  その日の大学の講義は朝からずっと上の空で全く頭に入ってこなかった。  その後の午後の就活セミナーも。いよいよ三年生の俺も就活が始まるってのに、その日参加した、大学側が主催の就職説明会も、ちっとも頭にはいってこなかった。  何社か、大学と縁のあるどっかの企業のリクルーターが来てスクリーンの前で説明してたけど、全く映像も音も全く入ってこなかった。  セミナーが終わると夕方、なにも取り合わず真っ直ぐに見送りをする駅に向かう。  最後にあの人にお礼を言いたかった。短い期間だったけど、俺たちはこの二週間、濃密な時間を一緒に過ごした。    待ち合わせした駅で、昨日の事なんか何もなかったかのように、普通の顔して落ち合い、新幹線乗り場まで一緒について行く。出来るだけいつもみたいな雰囲気を保つように努力して。  作る笑顔がぎこちなくひきつる。だから目は合わせない。  そうでもしないと今にも泣き出してしまいそうだから。敢えてチャラくしてやった。今日もこの後、男を引っかけに行く話をわざとしたりして…。  彼と別れる瞬間がこんなにも辛いなんて思わなかった。  
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