話が出来る幸せ

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話が出来る幸せ

 翌日、私は帝国大学脳神経外科に入院した。理紗の婚約者の片山先生の手術を受ける為だ。先生の説明によると胸部にパルスジェネレータを埋め込み、頸部に在る迷走神経の刺激を数カ月から数年続けることで脳の機能回復の可能性があるとの事だった。  パルスジェネレーターの埋め込み手術は数時間で終了し、私の迷走神経への刺激が始まった。 ーーー  迷走神経の刺激を始めて二年が経過していた。一年前から私は首を動かしたり、目を動かしたり出来るようになっていた。でも、回復はそこで止まってしまい、四肢を動かしたり喋ったりする所まで回復する見込みはないと思われていた。  今日も病室にやって来た浩二さんがオムツの交換、手や足の運動のサポート、体位交換をしてくれた。既に還暦間近の彼にとって、私の介護は大変だろうけど、彼は笑顔で私の身体を拭きながら声を掛けてくれる。 「百合、意識が戻って本当に良かったな」  ゆっくり頷くと、彼は柔らかい表情で私を見つめている。 「なぁ、百合。僕は今、大学の研究室で瞳の動きを捉えて、言葉を発声する機械を造っているんだ。何とか百合と話がしたいと思ってね。でも君の瞳の動作量はとても小さいから、それを捉えるのに苦労している。だけど何とか完成させるつもりだ」  その言葉に浩二さんの強い決意が含まれているのを感じていた。
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