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母の提案
その日、母が私を見つめていた。その表情は少し窶れている様に見える。
「百合。今日、先生に話を聞いたけど、貴女が回復する見込みは万に一つもないって」
母の頬を涙が流れている。
「でも、そんな貴女を看る為に、浩二さんは休職しているシカゴ大学を辞めると言ってるわ。貴女、どう思う?」
その言葉に私は本当に驚いていた。浩二さんはシカゴ大学で若き准教授として将来を切望されていた筈だ。私の為にそのチャンスを失うなんて……。私の心にまた深い悲しみが広がる。
その時、母は立ち上がると振り返って大きく頭を下げた。
「お義母さん、いらっしゃっていたんですね?」
「はい、浩二さんのお仕事は大丈夫ですか?」
浩二さんが母の横に現れた。
「はい、まだ帝国大学の講師はアルバイトですから。何とか、本採用して貰うつもりです」
母が浩二さんを見つめている。
「あの、浩二さん。一つ提案があるのですけど」
「はい、なんでしょう?」
「今後、私が百合を看ますから、浩二さんはアメリカにお戻り下さい」
「えっ? それはどういう意味ですか?」
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