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中岳へ
先ほどまで見えていた広大な筑後平野の景色から一転して、車は深い緑が生い茂る山々の間を縫う様に走り始めた。見上げると快晴の綺麗な青空がとても眩しい。
浩二君のお父さんが運転する車は高速を降りると狭い県道に入った。少し走ると大きく曲がりくねったカーブが連続し、車は一気に高度を上げていく。
その車には私の幼馴染の浩二君とその両親、そして私と母の五人が乗っている。福岡の自宅を出発して目指しているのは、やまなみハイウェイに在る牧ノ戸峠。そこから九州最高峰の久住山の中岳へ日帰り登山の計画をしていた。最高峰と言っても中岳の標高は一七九一メートルしかなくて、中学生の私達でも気軽にチャレンジできる。
私は何度も続く九十九折りの道に少しだけ気分が悪くなっていた。隣の浩二君が私の表情の変化に気づいてくれた。
「百合? 気分が悪いのか?」
「あ、うん」
浩二君がお父さんに声を掛けてくれる
「父さん、窓を開けていい?」
ミラー越しに後席を一瞥したお父さんが頷いている。
「エアコンを止めて、窓を開けよう。標高が高くなったから、もう暑くないだろう」
その声に続いて全ての窓が電動で開いていく。外から新鮮な空気が流れ込んで来た。
「わぁ、気持ち良い!」
私は気分が悪くなっていたことも忘れて、山の緑が創り出した酸素を思い切り吸い込んだ。
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