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牧ノ戸峠の駐車場で車から降りた私達は中岳に向かう登山道に入った。
浩二君の両親の後に母、そして私と浩二君が並んで登っていく。いきなり始まった沓掛山への道は勾配がキツかったけど、その後は稜線を歩く平坦な道が続いていく。そしてその左右にはピンクの花畑が見える。
「わぁー、綺麗!」
立ち止まって声を上げると背後から浩二君の声がする。
「ミヤマキリシマさ。ちょうどこの時期に満開になるんだ」
「……あれがミヤマキリシマ」
更に進み西千里ヶ浜と呼ばれる少し開けた場所に出た。そこから山頂に向かう登山道は再び急勾配で息が切れて来る。前を歩く浩二君が振り返って右手を出してくれた。その手をギューっと握る。
「もう少しだ。百合頑張れ」
私は大きく頷くと彼に手を引かれて山頂を目指した。
「わぁー、凄い!」
中岳の山頂からの眺めは正に絶景だった。左手の奥に由布岳が、右手に阿蘇のカルデラも見える。
「そうだろ。僕もこの景色、大好きなんだ」
右手を繋いだままの浩二君の声が聴こえる。
「うん、とても素敵。私、絶対、この景色を忘れないわ!」
その時、彼がギューっと私の右手を握りしめるのを感じていた。
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