1 気まずい母の日 

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 ことのはじまりはシェフの三人の娘さん(高三・高二・中一)が、深夜に自宅で(くつろ)ぐシェフに詰め寄ってきたことだった。 「「お母さんに自由な時間をあげたいの!」」  季節は爽やかな風の吹く初夏。真っ赤なカーネーションが全国のフラワーショップに所狭しと並ぶ頃。そう、年に一度の『母の日』が近い今日この頃。心優しいシェフの娘さんたちは、いつも頑張るお母さんに『時間』というお金で買えない素敵なものをプレゼントしようと決めたんだって。  あら素敵。なんと親孝行なことでしょう……。 「で、なんでそのしわ寄せが俺らに来るんだろーな」  色とりどりの美しいケーキたちで埋まり始めたショーケースを内側から見つめながら、私の隣の整った横顔はそう低く毒を吐く。
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