3 ハプニングの秋

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「甘いんじゃないすか、そんなん」  少し離れた位置からゆうこさんを見つめるその目は、ドキっとするほどまっすぐ真剣で、挑戦的でもあった。 「甘いか……。小野寺くんにとってはそうかもね。だけど実際はそんな強い子ばっかりじゃない」 「弱い奴は辞めてく、それだけっしょ。支える役割なんて、俺は必要ないと思いますけど」  聞いて震えそうなほどつめたい声だった。小野寺くんはゆうこさんの答えを待たずに「外掃いてきます」と会釈をして出ていってしまった。  この話に関しては小野寺くんはパティシエ側だから。夢も、現実も、私が思うよりもきっともっと具体的で身近なのかもしれない。そしてそれに対する覚悟も、きっとしっかり出来ているんだ。  ──耐えられる奴だけが生き残れる。  いつかそう話していた。長時間のキツい力仕事。少ないお給料に休日。『好き』という気持ちだけで、一体どこまで耐えられる? 「……それでも私は、できる限り寄り添いたいです。全部を理解できなくても、今回みたいに、お別れする形になっても」  仲間として。 「〈ひとの幸せを願う〉それがヴァンドゥーズの基本だもんね」  ゆうこさんはそう言ってウインクをして見せた。そう、幸せになってほしい。タケコさんにも、那須さんにも。それから、小野寺くんにも。 「あんみつちゃん。いいヴァンドゥーズになるわ」  しみじみ言うゆうこさんに、いやいや、と恐縮した。  いつか、パティシエさんになった小野寺くんの愚痴や悩みも、私は聞かせてもらいたいな。  地面に落ちた真っ黄色のイチョウの葉を丁寧にほうきで掃きのける小野寺くんの姿を窓越しに眺めながらそんなことを考えた。
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