里帰り

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 佳代は一雄が稼いだ金を使って、映画館やゲームセンターに行くようになった。  (金がある人間はこんな華やかなことが誰にも後ろ指を差されずに出来るんですね)  映画館のスクリーンで美しい女優が微笑む度、リズムゲームでコンボを達成する度、佳代は些か卑屈な妬ましい気分になった。しかしだからといって家に帰れば、気持ちが底の底まで沈み、自尊心が砕け散るであろうことは目に見えていた。  だから佳代は、しみったれた気持ちを相殺できる程に、けばけばしい娯楽に打ち込むことを選んだ。  そんなことをしているうち、成る程惨めな気持ちを感じることはなくなった。いつしか額に汗して働く父や兄、病弱な母に構うことなく、佳代はシアターやゲームセンターに足繁く通うようになってしまった。  これには一雄も佳代の両親も、堪忍袋の緒が切れた。一雄はリモコンを妹に投げつけ、噛みつくように怒鳴りつけた。それまで一雄は、家族に手をあげたことは一度たりともなかった。  「何の為の稼ぎだと思っているんだ!」  「何の為?――ああ、役立たずの両親に渡す為の稼ぎですか。まるでお金をドブに捨てているみたいですね。図書館の本で読んだんですが、兄さんのような人を頭の良い人達はマゾヒストって呼ぶらしいですよ」  佳代の口から飛び出したのは、少女の言葉とは思えない程に情け容赦ない毒舌であった。その時佳代は十二歳であったが、図書館通いが余程効いたのか、大人も裸足で逃げ出す程に口が達者になっていた。  この暴言には家に帰っていた母親も泣き出し、父親は顔を真っ赤にした。勿論一番侮辱された一雄は全身を震えさせて、「出ていけ!」と狂ったように叫び出した。  「出ていけ!俺達にその面もう見せるな!」  「ええ出て行きます」  反面佳代は不気味な程に落ち着いた様子で、洋服を鞄に詰めて出て行った。勿論家からなけなしの金を盗んでおくのも忘れなかった。  そして佳代は幼心に憧れの土地だった、大阪へと向かった。あの絢爛豪華な大阪城、道頓堀の煌びやかなネオンライト、そして高くそびえる通天閣――それらを目指して、大阪へと向かった。  しかしいくら口が達者で冷酷とはいえ、佳代はまだ十二歳の子供であった。大阪という大都会では決して、一人では生きていけない。  そんな彼女を拾ったのが、青火組だった。  
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