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終わりなき夏
1945年、鹿児島の夏は、青空がどこまでも広がり、灼熱の陽射しがすべてを焼き尽くすかのように照りつけていた。今日、僕は出撃命令を出された。五日後に出撃しないといけない。
零戦の機体は、まるで戦場の冷酷さを象徴するかのように、冷たく硬い金属の感触を伝えてくる。
僕はその機体の前に立ち、整備士たちが忙しそうに駆け回る様子を眺めながら、心の奥底で国の力になれるありがたさと不安を抑え込んでいた。
「主翼、垂直尾翼、問題なし!」
「風防、プロペラ、問題なし!」
「燃料タンク、問題なし!」
「よし、エンジンカウルはどうだ?」
「はい!エンジンカウル、問題なし!」
整備士たちの確認の声を聴いていると、僕と同じ日に出撃する黒木さんが静かに呟いた。
「次の出撃だな...」
「はい...」
「少しだけ怖いが、米軍に日本が勝利するためなら...俺は命を捧げても良いと思う。竜馬もそう思わないか?」
「そ、そう思います...」
少しぎこちなく答えてしまったことを後悔した。反戦的な言葉などを言ってしまったりすると、非国民として扱われてしまう。
幸い、黒木さんは俺の回答を真剣に聞いていなかったようだった。僕は少しだけ安心して、フッとバレないように息を吐いた。
「零戦の確認、完了致しました」
「はい、ありがとうございます」
整備士が最後のチェックを終え、僕と黒木に一礼する。僕はその姿に頭を下げるしかなかった。整備士が去ると黒木さんが僕の肩をポンッと叩いた。
「まあ、頑張れよ」
黒木さんはそう言って宿の方へ向かって去った。
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