世紀末だぜ! 魔法学園

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「トキちゃん、生徒会長が話しに来たの覚えてる?」 「おう、もちろん」  俺は、あの日のことを思い出した。  たしか、転校して三日目だったはず。  俺のクラスで昼飯を食っていたら、生徒会長の八千草先輩がイノリを訪ねてきた。  あの人が入ってきた瞬間、ぶわってクラスの空気が浮き立って、なんか異様だったっけ。 「桜沢祈、大事な話がある。ちょっと顔貸せよ」  なんつって、「否とは言わせねえぜ」って態度で、顎をしゃくってさ。  イノリはイノリで「いま、ご飯食べてるのでー」って、どこ吹く風で答えてた。  俺はと言うと、はらはらしてたな。  っていうのも、地味に体育会系だったからさ。先輩の言う事にゃ、とりあえず「はい!」って言うもんだってのが、染みついてるわけ。  俺は、そっぽ向いていたイノリの袖を引いた。 「おい、行ったほうがいんじゃね? なんなら俺もついて行くからさ」って耳打ちすると、イノリはへにゃんと眉を下げた。  で、しぶしぶ「トキちゃんはごはん食べててー」ってついて行ったんだ。  二人が出てったあとも、クラスメイトはざわついてて、好き勝手に色々話してた。「生徒会の勧誘じゃないか」って声が一番でかかったな。  実際、戻ってきたイノリに聞けば、そういう話だったらしく。 「何かねえ、生徒会入んないかって言われたんだぁ。でも、今は席が空いてないから、誰かに決闘挑んで、勝ったら入れてやるってさ。何それ、超めんどくせーって思ったから、「興味ないでーす」って、帰ってきた」  怖いもん知らず過ぎて、ビビったから良く覚えてる。    でも、肩口になつくイノリは、生徒会とかどうでも良さそうで。生徒会って話によれば、世紀末なやつらの集まりだし、危なそうだって俺も思ったし。  ま、いいかって、話はそこで終わったはずだった。 「それがどうして、生徒会に入ろうって思ったんだ?」  イノリは、俺と距離を置いてから生徒会に入った。庶務の藤川先輩に決闘を挑み、その席を手に入れたのだと、学校中の噂になっていた。そりゃ、驚いたさ。  イノリは、膝の上で両手を握りしめた。 「生徒会に入ったのは……ちからが欲しかったから」 「え?」  ちからとな。思わずきょとんとしちまうが、イノリの顔は真剣そのものだ。 「序列の「紫」ってさ、数が少ないじゃん。だから、皆そこを目指すんだって。紫はすげー、ああなりてーって。別に、そんな大したもんじゃないのにね」  イノリは自嘲気味に言って、ネクタイを指に絡めた。 「俺は、転校したての未熟な紫だから、標的にされたっぽいんだよね。毎日、決闘しろ、決闘しろってウザくてさー。ほら、決闘で勝ったら、相手の序列を奪えるじゃん。俺からなら、奪れると思ったんだろうね」 「なっ!」  俺はぎょっとした。全部初めて聞いたことばっかりだ。がばっと立ち上がると、イノリの腕を掴み、揺さぶった。 「お前、そんなあぶねえ目にあってたのかよ?! 聞いてねえぞ、そんなん! おまえ、怪我とか――」  「トキちゃん、大丈夫だよ! 俺、ぜんぶ断ってたんだ。決闘って、基本断わっちゃいけないらしいけど。俺は、転校したてだったし、猶予ってことで許されたから」 「そ、そっか。イノリ、ごめん……」  イノリの言葉に、俺は手の力を抜いた。  知らないうちに、イノリがそんな危ない目にあっていたなんてショックでさ。  それに、全然気づけなかった自分にも、心底ガッカリだった。 「トキちゃん」 「!」  そっと、俺の手が包むように握られる。顔を上げると、イノリが眉を下げて笑っていた。 「俺が隠してたんだよ。トキちゃんは何も悪くない」 「けどさ、」 「いいんだ。むしろ、俺があさはかだった。俺が適当にしてたせいで、トキちゃんが酷い目にあわされたんだから」 「え?」  イノリは、ぎゅっと一度強く手を握ると離した。それから、両腕を伸ばして、俺を正面から引き寄せた。甘い香りに包みこまれる。 「イノリ?」 「ごめん。トキちゃん、もうあんな目にあわせないから……」  イノリは辛そうな声で言うと、俺の肩や腕に触れた。まるで、俺の体がきちんと健康でいるか、確かめるようにやさしく。  俺は、イノリが何を謝っているのかわからず、不思議だった。 「なあ、イノリ。何言ってんだ? なんで、そんな辛そうな顔してんだよ」  手のひらでイノリの両頬を包む。イノリの目が、間近に大きく見開かれた。 「…………トキちゃん、覚えてないの?」 「何がよ」 「……そっか。なら、いいんだ。覚えてないなら、それが一番」  驚愕していたイノリだったが、一人で何やら納得してしまったようだった。それじゃ、俺は釈然としないわけで口を尖らせる。 「いや、よくねぇだろ」 「いいんだよ。ただ、俺がさ。もうトキちゃんを危ない目に遭わせないって、そう思ってること。それだけ、知っておいて」 「えええ」  イノリは、ニコっと笑う。やだ、俺の親友がカッコイイ。  しかし、このイノリの過敏なかんじは何だ。一体、俺に何があったんだって言うんだろう。  いや、そういえば。  イノリに距離を置かれる直前、知らん間に医務室にいたけども……。 「会長にさ、中途半端な権力は自滅の元だって言われたんだよね。そのときは、意味わかんなかったけど、こういうことかぁって、後から思う部分があってね。だから、生徒会に入ることにしたんだ。とりあえず、みんなに一目置かれて見ようと思ってさ」 「つまり、なめられねえように?」 「そんなかんじ。俺がすげぇ強いってわかれば、なめた真似できなくなるかなあって」 「おお~」 「決闘受けまくって、かたっぱしからぼこぼこにしてみてる。最近、けっこう怖がられてきたかなって思うんだぁ」 「そ、そっかぁ」  ニコニコと武闘派なことを話すイノリに、俺は内心ちょっとどぎまぎした。  すると、イノリは、突然口を噤み、俺の手を取った。 「でね……昨日やっとこの部屋が俺のスポットってことになったんだ」 「スポット?」 「えっとね、生徒会とか、紫の強い生徒がよくいるとこっていうか……。縄張りみたいなかんじ。怖いから近寄っちゃ駄目だって、みんながルールにするんだって」 「ああ、なるほど!」  俺は、ぽんと手を打った。さっきの青い頭の人が言ってた、スポットってのは上位者の縄張りのことだったのか。  すると、イノリはじっと俺を見つめて言った。 「まだ、俺と一緒にいたら、100%安全って言えないんだ。外では、知らない顔しなきゃなんないと思う。でも、ここなら、危険なことは無いはずだから。だから……お昼だけでいいから、俺と一緒にいてくれる?」  「駄目かな?」って、不安そうに揺れる目が言っていて。俺は、馬鹿だなって思った。その気持ちのまま、イノリに飛びついた。 「わっ!」 「当たり前だろ!」  イノリと、また一緒にいられる。  そんなこと、俺が喜ばないはずないじゃんか。
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