世紀末だぜ! 魔法学園

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 嬉しい時でも、時間ってちゃんと流れてるもんで。  昼休み終了のチャイムが鳴る。  別々に帰った方がいいってことで、俺が先に帰ることになった。 「またね、トキちゃん」 「おう、またなイノリ」  教室の中から、イノリがにこにこと手を振っている。俺も手を振り返した。  静かな廊下をずんずん歩きながら、俺は「くふふ」と笑いがこみ上げてきた。  イノリと、久々に話して、飯を食った。  で、明日からの昼休み、あそこに行けばイノリに会えるわけで。それが、めっちゃ嬉しい。  イノリと離れてたこのひと月、やっぱ寂しかったんだよな。  だってさ、今までずっと一緒にいたんだし、当然、ここでもそうだって思ってたから。 『生徒会に入ったのは……ちからが欲しかったから』  イノリの言葉が甦り、俺はピタッと足を止める。  305教室を振り返って、中にいるイノリを思った。 『俺は、転校したての未熟な紫だから、標的にされたっぽいんだよね』  俺がぼーっとしてるうちに、一人で闘っていたイノリ。毎日、決闘だって追い回されて、どんだけ不安だっただろう。  あいつ、親のことといい、俺にそういうの言わねえんだな。 「俺、もっとちゃんとしねえと」  別にさ。  イノリは、俺に言ってもしょうがねえとか、思ってるわけじゃねえと思う。でも、やっぱダチには頼られてえもんな。  なんつって、決意新たに迎える午後の授業。  今日は、武道館に集まって魔法バトルの実技をするらしい。  転校してから、魔法の基礎理論ってのをずっとやっててさ。魔法バトルみてえな授業は初めてで、ちょっと楽しみだ。 「いいか。魔法バトルを学ぶと言っても、一年のきみ達がまず修めるべきは、魔力のコントロールだ」  ジャージに着替えた葛城先生(やはり短パン)が、小脇に抱えたマネキンを床に置く。 「あくまで、バトルの形式で魔力のコントロールを学ぶのが、この授業の主眼だ。置かれた状況に対し、臨機応変に魔力の操作を行うのは、魔法バトルの基礎能力だが、体得するのは難しい。で、今日は、この「げんそくん三号」を使って、それを体感してもらう」  そう言うと先生は、マネキン改めげんそくん三号の背中のボタンを押した。のっぺらぼうの顔の真ん中に、丸くてでっかい石がはまってて、そこにポウッと赤い光が灯る。 「げんそくん三号は、風・火・水・土の四元素を宿していて、ランダムに元素の強さを切り替えることができる。今は、火の元素が強い状態になっているな。これを倒すにはどうしたらいいか……。理論で散々やったから、皆わかるものと思う。さて、今から一人ずつ、げんそくん三号と二分間バトルを行ってもらうぞ」  葛城先生はすらすらと説明を終えると、鳶尾を前に呼び出した。見本をするよう言われて、鳶尾は誇らしげに胸を張った。 「はい。先生、お願いします」  鳶尾は、げんそくん三号と向き合った。 「では、はじめ!」  葛城先生が、開始を合図する。  と、げんそくん三号は、人形と思えねえ動きで床を蹴り、鳶尾に向かって行く。  接近すると、腕をぶんとしならせて、鳶尾の顔面にビンタをくりだした。  鳶尾は、ボクサーのように頭を低くしてよける。そのまま一歩前に踏みこむと、固いどてっぱらに拳をお見舞いする。  バスっと重い音がして、げんそくんがよろけて下がった。殴られて仰のいた顔面の光が、暗褐色に変わる。  鳶尾は慌てず、軽快なフットワークを刻みつつ詠じた。 「我が身に宿る風の元素よ、風より疾くボクを動かせ」  鳶尾の全身が、淡い金の光に包まれる。  風を切って猛進すると、げんそくんの鼻っ面にビンタをぶちかます。パァン! と鋭い音が鳴り、げんそくんは完全にグロッキーを起こした。  膝から崩れ落ち、鳶尾の足元にドンガラガッシャンと倒れこむ。 「そこまで! 上出来だ、鳶尾。元素の変化にも、良く対応できていたぞ」 「ありがとうございます」  鳶尾はふふんと鼻を鳴らすと、列へ戻った。お追従マン二人が、わっと駆け寄って「すごかった」って褒めてる。  まあ確かに、すげえよな。  俺、元素の対応とか言われても、わかんねえし。やな奴だけど、やっぱ魔法も出来るんだよなーあいつ。  しかし、思ってたよりハードな授業だぞ。柔道の授業ならしたことあっけど、それでいけるかな。 「次、吉村! 行ってみるか?」  ぼーっとしてたら、先生に指名された。 「黒なのに、出来んのか?」とかひそひそ聞こえてくる中を、「どうもどうも」のポーズで前に出る。 「お願いします!」  よくわかんねえけど、やるしかねえ。  俺は、ムンと構えてげんそくん三号に向き合った。その顔面には、今は青い光が灯っている。 「では、はじめ!」  先生の合図で、げんそくんが向かってきた。鳶尾の時と違って、蛇行するような走りで、そんなに速くない。  俺も飛びだして、げんそくんの襟(は無いから、肩)に手を伸ばす。先手必勝! と肩と腕を取った。 「おりゃっ!」  思いっきり踏み込んで、逆の足でげんそくんの足を刈る。そのまま、全体重をかけて、げんそくんを押し倒した。  どふっ! と二人? して床に倒れこむ。 「どうだ?!」  が、げんそくんは、ピンピンしてた。下から打たれたすげえキックが、俺の腿にぶち当たる。 「ぎゃっ!」  超、痛え!  ふっとばされて、床をゴロゴロ転がった。太ももがジンジンする。  げんそくんは、てくてく近づいてくる。見上げた顔の光が、暗褐色に変化してた。  俺は、ファイトを湧き起こし立ち上がる。走り込みで鍛えた足、なめんな。げんそくんに突進し、肩を掴む。そして、 「あれっ」  ぎょっとする。  力一杯押しているのに、げんそくんは岩みてえにびくともしねえ。  あわあわと跳ね回っていると、クラスメイトが「わははは」と爆笑する。ひでえ。  と、げんそくんが俺の腕をはっしと掴んだ。そのまま、背中の上に背負い込んでくる。  あ、やべえ! て思ったときには、視界がグルンて回ってて。俺は、ズダン! と床に背中を打ちつけた。 「そこまで!」  葛城先生が、駆け寄ってきた。 「こら吉村、普通に格闘してどうする。魔力のコントロールが全然できてないじゃないか」 「あたたたた、すんません」 「まったく、この単元も補習だからな」 「うす。あたた」  先生に助け起こされて、医務室送りになった俺。  すれ違い様に、鳶尾達が「低レベルすぎて、嫌になるね」って呟いたのが聞こえた。  まあ、最初っから、上手くいくもんじゃねえけどさ。全然相手にならんくて、悔しいな。
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