冬季決闘大会への誘いだぜ。

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冬季決闘大会への誘いだぜ。

「なんかシップ臭え」  部屋に帰ってくるなり、佐賀先輩は言った。  眉間に皺を寄せて、鼻をひくつかせる顔が、近所のボブ春そっくりだ。ちょっと和みつつ、挙手する。 「すんません、俺っす」 「てめえかよ。怪我でもしたんか」 「うす。げんそくんに投げられちゃって」 「は。だっせ」  佐賀先輩は鼻で笑うと、鞄を二段ベッドの上にボンと投げ入れる。  と、勉強を教えてくれていた西浦先輩が、眉を吊り上げた。 「そんな風に言うなよ。吉ちゃん、怪我してるんだから」 「あ? 関係あんのかよ」  佐賀先輩も、片眉を跳ね上げる。着替え途中で、裸の上半身がムッキムキだ。威圧感が半端ねえ。  にらみ合う二人に、俺は慌てて割って入った。 「いや、俺、丈夫なんで! ほんと大丈夫っす」 「そう? 無理しないでいいんだよ?」 「うすっ」  心配そうに眉を下げる西浦先輩に、俺は二カっと笑って見せる。  西浦先輩って、優しいよなあ。  シップ臭させて帰ったら、血相変えて駆け寄ってきてくれてさ。背中痛えだろーって着替えも手伝ってくれたんだ。  まあ実のところ、そんなに酷い怪我じゃねえから、ちょっと悪いなぁって思ったりもするけどな。  俺、マジで頑丈なところが取りえだからさ。シップが効いてて、もう全然痛くねえの。  Tシャツ短パンに着替えた佐賀先輩が、俺のベッドに腰かける。 「吉村、追試受かったんだろうな」 「あ、はい! おかげさんで、今日やっと受かりました」 「そーかよ」  佐賀先輩は、俺の枕元のマンガを取って読みだした。てか、何気に、気にしてくれてたんだ。けっこう親切だよなあ。  西浦先輩は、喉に骨が刺さったみてえな顔で、佐賀先輩を見ていた。  その謎の表情は、俺の視線に気づくと、苦笑にかわる。 「もうすぐ夕飯だね。この辺りにしとこうか」 「うす。ありがとうございました」  教科書を片付けて、コップを重ねたら暇になって。 「そういえば、先輩。ちょっと、聞きたいことあるんすけど」 「ん、なに?」  どうせだから、聞いておこうかと。  俺は、鞄をゴソゴソ探ると、プリントを一枚取り出した。  机に置くと、西浦先輩が覗き込み「ああ」って頷いた。 「冬季決闘大会の案内か。これがどうかしたの?」 「今日、葛城先生から貰ったんす。けど……」  葛城先生は、放課後クラス皆にこのプリントを配った。  全員の手に渡ったのを確認して、先生はオホンと咳払いする。 「えー、今年も冬季決闘大会が開催される。学園主催の決闘大会で、冬休み前の祭りみたいなものだ。細かいことは、プリントに記載したから読んでおくこと」  クラスメイトのほとんどが、すでにわかってたみたいでさ。プリント握りしめて、見るからにわくわくしてた。  決闘なら、普段からしてんのに。なんか特別なことでもあんの?  葛城先生は、頼もしそうにクラスを眺めて、こんなことを付け足した。 「そうだ。決闘大会には、原則全員参加だぞ。欠席は、どうにもならない健康上の理由か、のっぴきならない家族の用事以外は認めない。どうしても欠席する場合は、事前の申請がいるから、早めに申し出る様に」  言いながら先生は、ちらっと俺を見たような気がする。 「決闘大会って、普通の決闘と何か違うんすか?」 「そうだね。一番大きいのは、ハイリスク・ハイリターンが狙えるところかな。普段の決闘は、生徒会と風紀の管轄でやってるでしょう。だから、あんまり危険なカードはストップがかけられるんだ」 「どういうことっすか?」  首を傾げると、佐賀先輩が口を挟む。 「魔法バトルはガチだろ。実力差がでかすぎると、大惨事になりかねねェ。だから、序列が三つ以上離れた相手には、挑むことが出来ねえようになってんだ」 「へぇ、そうなんすか!」  確かに、俺とかは、ぼっこぼこにされる未来しか見えねえもんな。  決闘は断んなとか言われて、超やべえって思うけど、一応の線引きはされてたらしい。 「てめえの場合、いつもは黄か白にしか挑めねえってこった。だが」 「決闘大会はね、学園主催でしょ。学園OBの、一級の治癒術師をかき集めて開催されるんだ。だから、多少の惨事はなんとかなるってことで、カードの制限がなくなるんだよ」 「え」 「つまり、序列の関係で挑めねえ相手に挑んで、一発逆転狙えるかもしれねーってこった。毎年、すげぇぜ。白から、紫に上がった奴もいる。逆に、急落する奴もな」 「へ、へええ」  何それ、やべえ。天国から地獄の様相じゃん。  思わず、遠い目になっちまう。  すると、西浦先輩が気づかわしそうに身を乗り出した。 「吉ちゃん、吉ちゃんはまだ決闘したことないだろ? 黒は……その、挑まれにくいから」 「逆にな」 「佐賀! ……決闘大会は、学園主催ゆえの無法状態なんだ。下位をいたぶるような、性質の悪い奴もいる。もし、吉ちゃんが不安なら、欠席してもいいと思うよ。その、転校してきたばっかりだしさ」  西浦先輩は、言いづらそうに目を伏せた。俺の為に、めちゃくちゃ言葉を選んでくれてるのが、わかった。  答えあぐねていると、佐賀先輩が、ハッと鼻で笑った。 「相変わらずの臆病風だな。勝てるもんも勝てねえわけだ」 「何……?」  やべえ。西浦先輩の目つきが、めちゃくちゃ怖い。  佐賀先輩は、苛々と楽しさが半々、みたいな複雑な顔で笑ってるし。  今までで、一番張り詰めた雰囲気になって、俺は焦った。 「あああの! 先輩がた、色々教えて貰って、ありがとうございました! 俺、ちょっといろいろ考えてみますよっ!」  ガバッと立ち上がって、叫んだ。空気読めねえふりで、空気をぶち壊す作戦だ。  が、二人は無言でにらみ合ってる。 「もう夕飯っすよね! 行きませんか?」  無言。 「……あーっと。俺、先行きますね! ごゆっくり!」  俺は、財布をケツに突っ込むと、部屋を出た。  扉が閉まる直前、部屋の中を振り返ると、二人が睨み合ってるのが見えてあちゃーっとなる。  やべえ、やっちまった。てか、ごゆっくりってなんだよ俺。
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