魔法使いとか聞いてねえぜ!

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 俺は、両腕振り回してキレた。  おじさんは、「おっと!」とのけ反り、俺のぐるぐるパンチを避ける。自分のパートナー(つまり父さん)を抱き寄せるのも忘れない。 「お、落ち着くんだ、時生ー!」 「うるせぇ~! 馬鹿にすんのもたいがいにしろッ。いくらアホでも男同士でデキねえくらい、わかるわい!」  これが落ち着いていられるか。  俺が、父さんとおじさんのガキとかさ。おしべとおしべで、どう受粉すんだって話だろ。  いくら何でも、もうちょっとましな言い訳できねえのか。 「トキちゃん!」  すると、背後から長い腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられる。  ふわり、とイノリが愛用してる香水の、甘い香りがした。  振り返れば、イノリのマジな顔が真上にあって、息を飲む。 「イノリ」 「おじさん達、急ぎすぎっすよ。ちゃんと、トキちゃんの気持ち考えてくんなきゃ」 「あ……つい。ごめんよ、時生」 「いや、まあ……」  俺の頭に顎を置いて、イノリがおっさん達に物申す。したら、父さんもハッとしたらしく、謝った。  いや、自分サイドの人間がいるって、ありがたいんだな。おかげで俺も、だいぶクールダウンした。 「サンキュな」  イノリの腕をぎゅっと掴むと、頭上で得意そうに笑う気配がある。 「こほん! ……時生くん、話の続きをしてもいいですか?」 「あ、うん」  おじさんが、大きな咳払いをした。何か、複雑そうな顔で俺たちを見てて、妙だったけど。  とりあえず、父さん達にはソファに戻って貰って、俺たちも椅子にかけ直す。  ちなみに、さっきまでの間ずっと、おばさん達は「ずいずいずっころばし」してた。自由にもほどがあるぜ。 「すみません、気が逸ってしまいましたね。時生くん、ぼくと勇二さんは正真正銘、君の生みの親なんですよ。そして、それにはちゃんと、無理のない理由があるんです」  いや、どう考えても無理はあるだろ。  半眼になる俺をよそに、おじさんはぐっと目力を込め、理由とやらを話し出す。 「聞いてください――実は、ぼくと勇二さんは魔法使いなんです。たしかに、ヒト族のオス同士は生殖不可能ですが、魔法使いは違います。魔法の力で、細胞を結びつけることが出来ますから。それで、性別関係なく子を授かることが出来るんです」 「は?」 「ぼくと勇二さんは、愛し合っています。十七年前、家族になろうと決めたとき、君をつくりました」  恐ろしいことに、おじさんは、声も顔も大マジだった。  こんな与太話、こんな顔で喋れる奴が、地球上にいんのかってくらい。  俺が何も言えねえでいると、おじさんは苦笑した。 「信じられませんか?」 「いや、普通信じられねえよ。まあ、おじさんがこんなバカな嘘、つくとも思えねえけど……」  今となっちゃ怪しいが、おじさんは俺の周囲で一番頭がいいんだ。  言うと、おじさんは、少し嬉しそうに微笑んだ。 「では、論より証拠ですね」  麦茶のコップに手をかざす。  すると、麦茶が球になって、高く浮き上がった。そのまま、俺の方まで飛んで来たかと思うと、パンと一息に砕け散った。  きらきらと麦茶の粉雪が散る。 「うおお?!」 「おおお!」  俺が叫ぶと、なぜか父さんもデュエットする。 「さっき、拝音さんが火を出したの見ましたよね。あれも魔法なんです」 「ああ!」  あの特撮みたいなやつもか!  おばさんを見ると、得意そうに胸を突き出している。 「わたし達も魔法使いだからね。ちなみに、イノリもわたしと希美ちゃんの子供なんだから」 「ええ?!」  おばさんが何でもないように付け足したことに、俺は勢いよく隣を振り返る。  イノリは全く動じねえで、眠そうに俺の肩口になついていた。 「おいっ、もっと驚けよイノリ!」 「うーん、そんなに?」 「いや、普通よお、衝撃の事実の連続じゃねえか。『ええ~?』とか、『うっそー』とか、もっとあるだろ?」  ていうか、もっと驚いてくれねえと俺だけ置いてけぼりじゃねえか。わたわたと腕を振る俺に、イノリは首をこてんと傾げた。 「んー。でも、俺知ってたし」 「へ」 「なんなら、魔法も使えるし」  言いながら、イノリが手をかざした。  ソファに置いてたクッションが、ぽぽぽと宙に浮き上がる。それから、全部おばさんの頭に命中した。 「ええ~~!?」 「ね?」  叫んだ俺に、イノリが得意そうににっこりする。  「こんクソガキャア!」とおばさんが青筋立てて叫び、母ちゃんが必死に宥めている。  イノリお前、まじで「うっそー」て感じだわ……。
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