魔法使いとか聞いてねえぜ!

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 親のみならず、親友で幼馴染のイノリまで、魔法使いだった。  たった一日に、こんな経験するやつは、俺ぐらいのもんじゃねえ?  まあ、とりあえず、話をしなきゃならんと思ったからさ。 「イノリよお、お前いつから知ってたんだ?」 「ん? 何を?」  イノリを自室に連れ込んで、俺はずばり聞いた。  でっかいビーズクッションを抱えて、イノリはきょとんと首を傾げている。 「いや、お前がさ、母ちゃんとおばさんの子供だったとか。あと、魔法とか色々な?」 「ああ、それかあ」 「それ以外に何もねえよ、この状況で」  おっとりした反応に脱力する。  するとイノリは、「んー」と唇に指を当て、天井を見上げた。 「そーだなあ。俺が、母さんと希美ママの子供だってわかったのは、小3ぐらいだったかな?」 「早えな!?」 「あはは。あんね、プールの日だったんだけど。海パン忘れて、家に取りに戻ったんだよね。そしたら、シャワーの音がしてて――」 「うおおお、もういい言わなくて! 俺が悪かったっ!」  衝撃の内容に、慌ててイノリの口を塞いだ。  マジかよ、信じられねえ。  小学生で、そんなとんでもねえ修羅場潜っちまったのか、コイツ。俺だったら絶対にグレてるぞ。  でも、そういえば。確かにそんぐらいの頃、イノリが暗い顔で学校に来たことがあったような。すぐに普通になったから、忘れてたけど……。  まさか、こんなことがあったとは。全然知らなかったとか、やべえ。俺って、友だち甲斐なくね?  俺は、ガキの頃のイノリに悪くって、黙り込んだ。 「トキちゃん、怒った?」  はっとして、顔を上げる。  イノリは、困ったような顔をして、上目に俺を見ていた。 「なんで、俺が怒んだよ?」 「だって……俺、トキちゃんの親のことも、ずっと前から知ってたんだよ。それなのに、今まで知らないふりしてたんだ」 「そんなん。俺でも、俺に言わねえし。お前いっこも悪くねえじゃん」  むしろ、イノリこそ、誰にも言えなくて辛かっただろうに。お前の方が、俺に怒ったって当然だと思うけど。  俺の言葉に、イノリはビーズクッションに顔を埋めて首を振る。 「違うんだ。怖くて言わなかっただけ。俺たちの親がこんなんで、トキちゃんに嫌われやしないかって……だから、トキちゃんが今日、すっげぇショック受けたのも、俺のワガママのせいなんだよ?」  不安でいっぱいって感じの声で、イノリはぽつぽつ話した。  でっかい図体が、クッションに仕舞えそうに小さくなって震えている。  俺は、呆気にとられて、振動するイノリの旋毛を見ていた。だって、こいつは何を言ってんの?  「馬ー鹿!」 「うわっ!?」  俺はイノリに飛びつくと、亜麻色の頭をガシッとホールドした。  そのまま、わしゃくしゃと両手でさらっさらの髪をかき回してやる。  イノリは、ぎょっとして顔を上げた。 「と、ときちゃんっ?!」 「ばっか、お前。マジで馬鹿、すげえ馬鹿だなあ、イノリお前!」 「ひどい! 四回も言った」  わめくイノリの頭を掴み、額をごつん、とぶっつけた。至近距離で、涙でうるんだ目を覗き込む。 「俺がお前を嫌いになるはずねーじゃん!」  イノリの目が、大きく見開かれた。俺は、二カッと歯を出して笑って見せる。  全く、イノリの奴は、俺たちの付き合いを何だと思っているんだか。  わかんねえのかな。こんなことで、嫌いになったりしねえってことくらい。 「――トキちゃん!!」 「うおぉっ!?」  イノリが感極まった様子で、飛びついてきた。  もはや、タックルの勢いだ。長い腕に羽交い締めにされながら、俺はずざざざと後ずさる。 「あでっ」  ボスッと、背中がベッドに押し倒された。ご機嫌なイノリに、ぎゅうぎゅうに抱きつかれる。 「トキちゃんトキちゃん、大好きだっ」 「おー、そうかぃ。よかったなあ」 「えへへ」  懐いてくる頭をポンポンと撫でてやると、嬉しそうに笑っている。いつものニコニコした笑顔に戻っていて、俺もちょっとホッとした。 「そうだ。ねぇ、トキちゃん?」 「ん?」  ふとイノリが、額をくっつけて、俺の目を覗き込んでくる。亜麻色の長い髪が、顔にかかってきて、くすぐったい。  思わず身をすくめると、イノリの目がやんわりと細まった。 「トキちゃん、もし――」  バン!  イノリが何か言いかけたとき、でかい音でドアが開いた。 「時生お! 祈くんん! そろそろ魔法の話でもしようか! 良い時間だし、晩ごはんでも食べながらさ!」  何故か真っ赤になった父さんが、部屋に駆け込んできた。その後ろから、残りの親たちも雪崩れ込んでくる。  イノリは、しぶしぶ俺の上からどいて口を尖らせた。 「いいところだったのに……」 「ご、ごめんよ祈くん。でも、なんかね。桜沢さんの圧が凄くてさ」 「勇二、なんか言った?」 「ひょえっ、何も!」  おばさんに睨まれて、父さんはぴょいと背筋を跳ねさせた。弱すぎる。  おじさんは、父さんの肩に手を置いて苦笑した。 「今日は、お寿司でもとりましょうか……祈くんと、時生くんの学校について、大切な話がありますから」
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