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1.流れ星
コンビニのバイトの帰り道、発売日に手に入れたBL本を手に意気揚々と自宅への帰路についていた。
俺はいわゆるフリーターで大学も肌に合わずに辞めてしまったけど、家族はそんな俺を叱りはしたがお金を稼ぐなら何でもいいと優しく受け入れてくれた。
未だに実家暮らしで早い年齢から腐女子となった姉の影響もあり、姉に巻き込まれる形でBLとはなんぞや? という教育という名の布教を自然と受けてきた。
特に反抗期もなく元々漫画が好きだったので姉に恨み言を言うでもなく、BLも一つのジャンルとして捉えていたし、他のヤツらみたいに偏見もなかった。
むしろ今では姉に影響されて自ら買って読む側、俗に言う腐男子だったりする。
自分の見た目は平凡だし、髪の毛はいつもお安いところに行って適当に切るだけだ。
大体切り忘れてるから、前髪が伸びて顔が見えない。
本の読みすぎで視力も悪いし、黒縁の眼鏡をかけているから顔も隠れてる。
服装も母親が買ってきたスーパーの服で適当だ。
俺は野暮ったいし友達も少ないけど、萌えがあれば生きていける。
同士はネット上にもたくさんいるから別に寂しくもない。
帰路の途中、何気なく夜空を見上げる。
ここは一応都会でそこまで星が見えるわけじゃないけど、天気が良かったせいか珍しくキラキラと輝く星たちが優しく夜空を照らしていた。
「今日は良く見えるな。たまにはこういうのも……って、アレ? もしかして流れ星?」
なんちゃら流星群なんてニュースやってたか? と思ったけど、気分も良いしノリでお願い事をしてみることにする。
両手を合わせて目を閉じて祈る。信心深い訳ではないけど、お願いごとをする時は自然と目は閉じてしまうものだ。
「……よし」
俺は心の中で願い事を唱え終えると同時に一筋の光が流れていってしまったのか、そこにはもう夜空を照らす星々しか見えなかった。
やりきった感でさらにテンションもあがり、軽やかな足取りで小脇に本を抱えて帰り道を急いだ。
「ただいまー」
「おかえり、サツキ……って。また買ってきた訳? 読んだら貸してよ」
「自分で買えばいいじゃん。俺はこれから引きこもるからよろしく」
「引きこもるって、いつもだから」
姉と適当なやり取りをして、二階の自室に上がると俺は至福のひとときを過ごすのが日課だ。
母も別に俺の楽しみの邪魔はしないし、家族とも上手くやってるから問題もない。
ウチはおおらかな一家なのだ。
今日はご飯も適当に食べるからと言ってあるし、邪魔が入らずに新刊を堪能できる。
肩から提げていたボロい布のバッグも適当に床へと放り、手にした本屋のビニール袋は胸に抱えこむ。
俺の自室はさして面白くもない部屋だ。
適当に組み立てた茶や白の本棚にBL本達が詰め詰めになっている。
他に目立つものといったら、窓際には中学の頃から使っているボロくなったベッドが置いてあるくらいだ。
布団やタオルケットも安い店で適当に買ったくすんだグレーだし、洋服もシールがペタペタと貼られた年代物のタンスに突っ込んである。
室内もそこまで片付いてもいないが、足の踏み場もないほど汚くもないという実に中途半端な仕様だ。
室内にはお気に入りのカプのポスターが何枚か貼ってあるので、俺と家族以外は立入禁止の聖域だ。
「さて、この前は二人で揉めてたけど。今回こそは……」
俺は早速、最近買ったお気に入りのブルーの人をダメにする低反発クッションへ寄りかかりページを捲り始めた。
すぐに夢中になって時間が経つのも忘れて読み進めていく。
「うぁー! 最高! 最&高! 萌えるー!」
本日の新刊を読み終えて、クッションに顔を擦りつけてもだもだする。
顔に擦りつけられた眼鏡が痛かろうと気にならない。俺の気分は今、まさに最高潮だからだ。
俺が叫ぶのもいつものことなので、特に隣室の姉からも苦情はない。
早速、本の感想を熱い気持ちのまま伝えようとスマホを手に取りSNSへと書き連ねていく。
同じく今日新刊を読んだ人たちから、数分もしないうちにいいねがたくさん付く。
「みんな俺と同じ気持ちなんだってー。あそこでの顎クイはズルい! 尊い!」
気持ちが冷めやらぬまま、風呂にも入ってないことを思い出す。何度でも読み返す価値のある素晴らしい展開に本へ両手を合わせて拝み、ベッドの上に置く。
(後は、寝る前にもう一度読み返そう! そうしよう!)
ニヤニヤしながら、鼻歌混じりで階下の風呂へと向かう。
鼻歌が音痴だったのだけ姉に突っ込まれたけど、気にせず牛乳を一気飲みして至福のひとときその二へと向かうのだ。
部屋に戻って髪の毛が乾くまではまたスマホを弄って、髪の毛が渇いたところで明かりを落としてベッドへと横たわる。
そして、愛を込めてマンガや小説を二度見しながら寝落ちるまでがいつものルーティンだ。
「うぅ……仲直りして良かった……! 俺はやっぱりラブラブなのが好きだ。切なくても、ラストはラブラブハッピーがいい!」
幸せな気持ちで本を閉じると、スマホを充電してから布団をかけて本格的な眠りに入る。
身体が暖まってくると自然にウトウトとしてきて、気づいた時には眠ってしまった。
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