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アリの行列を追え
カーキ色の服に身を包んだ我々は、アリの行列を追跡していた。アリたちに余計な警戒心を抱かせないよう、50センチほどの距離を取りながら平行に進んでいた。
ほふく前進しながら、胸は高鳴っていた。ずいぶん長い行列だったからだ。この先には、一体何があるのだろう。
「尾長社ちょ……いえ、隊長!」
部下の大江が私の靴の踵を掴み、小声で言った。ふり向くと、彼は双眼鏡をかまえていた。
「12時方向3メートル先、その地点でアリたちが何かにたかっています!」
私は前に向き直った。私も先ほどから気づいていたが、やはりそうか。
「よし。追跡は中止して、一気に詰めるぞ!
皆、立ってダッシュ!」
私を含む3人の男が3メートルダッシュしてしゃがんだ。
果たしてそこには、誰かが好意で置いたらしい砂糖の山があった。高さ1センチ、幅5センチあるかないかだ。それにアリたちが群がって、一粒か2粒ずつ、嬉々として運び出していた。
「砂糖の山だったか……」
お宝の正体が判明したのに、我々のテンションは上がらなかった。沈黙のあと、大江の相棒である大雅が寂しそうに言った。
「我々は悲しい存在です。図体がデカい、それだけで、異種の者たちと喜びを共有できないのですから。」
我々は無言のままうなずいた。
そのまま、誰からともなく社屋に向かった。仕事に戻るためだ。仕事は、ジオラマ作りの代行業だ。最近の子どもたちは、すぐに完成品を見たがる。あるいは、失敗したら買ってくれた親に叱られると、泣きついてくる。
「楽しみ……か。」
途中でふと、私は空を見上げた。
空はいつもと変わらず、高く遠かった。これからも高く遠いのだろう。
ロケットで空を突き抜けた、かつての宇宙飛行士は言った。ーー地球は青かった、と。青かったの一言が、いまは過去形の言葉に思えてならなかった。
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