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 岩城丈(いわきじょう)は「ただいま」と、アパートのドアを開けたが「チッ……」と舌打ちした。  まだクセが抜けねえ。  いつも愛想よく「おかえり」と返してくれていた真実(まみ)を、オレが追い出しちまった。  ある日ちょっとした口論になり「嫁さん(づら)すんなよ! うぜえな!」と怒鳴ったら、目を真っ赤にして出ていった。さすがに酷いことを言っちまったと反省して、翌日電話とメッセージを送ったがスルーのままだ。私物は置きっぱだが、もう帰ってこねえだろうな……。付き合って一年、半同棲になって半年後のことだった。  丈は床の上のゴミ袋を蹴っとばして、デリバリーバッグを置くと、ベッドに腰掛けてコンビニで買った発泡酒をぐびぐび飲んだ。  今日の稼ぎは四千八百円。時給千円にもならなかった。四月にパチンコ屋をクビになってから三ヶ月、フードデリバリーでなんとか(しの)いでいるが、生活は苦しかった。あと二年で三十路(みそじ)だってのに、いつまでこんな生活が続くんだ……。ため息を吐いたが、すべては自業自得だった。  パチンコゴトに協力して、上がりから手数料をもらっていたのが店にバレてクビになったのだ。そんな危ない橋を渡ったのも借金を返すためだったが、借金自体がギャンブルでこさえたものだから、自分でも嫌になるクズだった。勤めていたパチンコ店が警察沙汰を嫌ったおかげもあって、店長に必死に土下座して刑事罰は(まぬが)れたが自己都合でクビ。その後三社ほど面接を受けるも、Fラン卒でパソコンもろくに使えない丈にはどこも冷たく、嫌気がさして転職活動を辞めてフードデリバリーで糊口(ここう)(しの)いでいた。  だが、七月に入ると猛暑日が続いてさすがに体力の消耗が激しかった。働き方が自由なところはパチンコ屋にないメリットだが、熱中症のリスク、時間との戦い、天候に左右されるなど、デメリットも多い。さらに競合も同業者も多く、ちんたらやっていれば注文を取りっぱぐれる。  どうすりゃあコスパ、タイパを上げれるんだ……。とにかく金が欲しい。  根がズボラな丈は、できるだけ要領よく稼げる方法を考えながら、毎日デリバリーを続けた。  そうしたある日、格好のエリアを発見した。
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