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「一回運んで五万円。どうかな?」  伊勢谷の足元に黒い布製の小型のボストンバッグが置いてあった。 「それを産廃置き場に捨ててくればいいんですか? それだけ?」 「そう、それだけ。ただ、三つ条件をつけさせてもらう。一つは、中を見ないこと。二つ目は、こっそり捨てること。それと他人に頼まないこと。この三つは守って欲しい。あと、移動の交通費は五万円に含まれる、精算面倒だからね。産廃場のリストはこっちで用意したから」  丈は腕組みをして考えた。条件が破格すぎる。思い切って訊いた。 「これ中身はなんですか?」 「うーん……ここだけの話、産業廃棄物。僕の仕事で出たゴミ。産廃は通常の手続きを踏むと面倒なんだよ、書類とか色々。引き取り料も発生するしね。そうした作業に時間を割くのは効率悪いから、丈さんに頼めないかなと。仕事ぶりも安心だし。中を見ないでほしいのは、万が一見つかった場合も、知らないで運んだのならたいした罪に問われない」 「わかりました……ちなみに、これ一回運べば終わりですか?」 「いい質問だね。予定では十回くらいかな」  ゴミを不法投棄するだけで五十万になる。昔洋画で見た運び屋みたいだ。  運び屋ジョー、悪くねえか。軽い気持ちで引き受けることにした。  初回の荷物は、持った感じは五キロの米よりも軽かった。これを東京郊外のC市の処理場に捨てた。フードデリバリーのリュックのお陰か、警備員に「ご苦労さま」と声をかけられただけであっさり中に入れたので、廃材が山積みの鉄製のカゴに捨てた。証拠の写メを撮って伊勢谷に送ったら、翌日に五万円が振り込まれていた。  やっぱ金持ちは違うなと、興味が湧いて伊勢谷のことをネットで調べた。最先端のAIを使ったサービスのコンサル業をはじめ、ロボットやゲーム制作、政府のアドバイザーなど、幅広い分野と提携している急成長のベンチャー経営者だった。IT専門サイトで特集が組まれていて、四十二歳独身で、総資産四百億円とあった。 「四百億……」  自分よりも一回りとちょい上で四百億の資産。かたや自分は、三百万の借金も返せずに汗水を垂れ流す毎日……。なんだかバカらしくもなったが、伊勢谷に気に入られていれば、何かチャンスが掴めるかもしれない。とにかく金が欲しい。淡い下心を胸に、丈は不法投棄に励んだ。  一週間ほどで五回分を終えると、伊勢谷から「折り返しなので美味しい食事(もの)でもご馳走しますよ」と誘われ、丈は六本木に赴いた。
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