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その後も順調に不法投棄を続けたが、七回目にちょっとしたトラブルがあった。関東のG県の処理場でのことだ。ここは受付を通らないと場内に入れず日中の侵入が難しかったため、駅前のネットカフェで夜まで時間をつぶした。
十時過ぎにレンタサイクルを漕ぎながら処理場に向かっていると、突然野犬に追いかけられた。「ワンワン!」と狂ったように吠えながら二十分ほど全力で追いかけられて、なんとか撒いたが、くたくたになりながらもどうにか不法投棄を完了した。
八回目はS県、九回目の今朝は始発で出かけて、東京郊外のH市の処理場に捨てた。ここまでで三十五万の稼ぎで、明日にはもう十万振り込まれる。交通費などの経費を差っ引いても十分な金が手元に残り、借金にもあてられる。ようやく息ができると、久しぶりに気持ちが軽くなっていた。
丈は中央線の新宿駅で途中下車して東口に足を向けた。一服してからドンキに寄って真実になんか買ってやろうと考えた。もちろん、二度と会えない確率の方が高いが、もし時間をくれるなら頭を下げて、せめてお詫びの品を渡そう。
信号を待ちながらぼんやりと対面の大型ビジョンを眺めていたが、流れてきたニュースにぎょっと目を見開いた。信号が青になり後ろから来る人がぶつかってくるが、足が前に出ない。踵を返し人混みから抜けて、すぐにスマートフォンを開いた。
『産廃処理場 バラバラ死体』
検索アプリに入力し検索ボタンをタップすると、検索結果の一番上に表示された。
〈G県の産業廃棄物処理場 切断遺体見つかる〉
XX日午前、G県X市の産業廃棄物処理場で、年代不明の女性とみられる遺体の一部が見つかり、警察が捜査をすすめています。遺体の一部が発見されたのは、Y町の産業廃棄物処理場で、処理場に侵入した野犬が異常に吠えたことから、警備員が廃棄物を確認したところ、小型のボストンバッグの中に、女性のものと思われる右上腕部が入っており、警察に通報したものです……。
「ウソだろ……」と言ったものの、自分が捨てたバッグだと確信があった。あのとき追いかけてきた野良犬は死体の臭いに反応したんだと。オレは、殺された女の身体の一部を運んでたのか……想像すると吐きそうになった。
伊勢谷の野郎ハメやがった……瞬間で怒りが頂点に達し、すぐに電話をかけようとしたが、待てよ、と躊躇った。下手に伊勢谷と接触せずに警察に行くべきか。ひとまず家に戻って冷静に考えようと、丈は駅に戻り自宅へと急いだ。
四十分ほどでアパートに着いたが、ずっと心臓がバクバクしていた。オレが殺ったわけじゃねえし騙されただけの、むしろオレも被害者だ。自分の正当性を何度も反芻しながら、
「ただいま」とドアを開けて玄関に入った。あ、またクセでと思った矢先、
「おかえり……」と、低い声が返ってきた。伊勢谷だった。
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