3人が本棚に入れています
本棚に追加
6
すぐに踵を返し、玄関を出ようとしたが足がもつれて派手に転んだ。ドアにしこたま頭を打ちつけて朦朧としていると、背後から羽交い締めにされて、ずるずると部屋まで引き摺られた。伊勢谷の太い右上腕が首に食い込み息ができない。チョークスリーパーの体制で、伊勢谷が太い両脚で肋がきしむほど胴を締めつけてくる。
「お、女も……こうやって、こ、殺したのか……?」
「丈さん、すぐ僕に連絡くれれば良かったのに……判断誤ったね」
「な、なんでここが……?」
「ハイヤーで送ったよね、そういうことさ。リスクマネジメントは経営の基本だよ」
「お……オレを、殺しても、し、仕方ねえだろ……」
「時間稼ぎだ。あなたに警察に行かれたらその時間もない」
「なんで……オレなんだ……配達員は、ほかにも……」
「三百万の借金がある、仕事が速い、あまり賢くない、この三つだ。僕はあなた達のように思いつきで生きてない。慎重に戦略を練って極限までリスクを減らしてから実行する。これが成功の秘訣だ。あの女もあれほどピル飲んどけと言ったのに聴かなかった。あんな愚鈍な女が僕のDNAを継ぐなど有り得ないし虫唾が走る!」
「オレは……て、てめえに、虫唾が、は、走る……」
「クズが! 死ね!」
喉仏が潰れるような力で大蛇のように腕が巻きついてきた。もう一息もできない。
目の前が真っ暗になり意識が遠のいていった。野球に打ち込んだ高校時代の姿や両親の顔が浮かび、最後に真実の笑顔が浮かんだ。目先の金に釣られてバカ踏んじまった……後悔するのが遅かった。これで人生が終わりかと思うと、涙が溢れてきた。まだ、真実に詫びてねえのに……。そのまま意識が無くなった。
最初のコメントを投稿しよう!