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 半年後――  居酒屋の仕事を終えた丈は帰りの電車に駆け込んだ。すでに終電が近い。幸い席が空いていてホッと腰を下ろす。何気なく前を見ると、対面のサラリーマンが膝の上に小型の黒いボストンバッグを乗せていた。途端に心臓がバクバクして当時の恐怖が蘇った。  伊勢谷に首を絞められていたとき、たまたま私物を取りに寄った真実が大声で叫びながら金属バットを無茶苦茶に振り回し、焦った伊勢谷は逃げた。真実がすぐに救急と警察を呼び、丈は救急搬送された。心肺停止状態だったが死の淵で蘇生し、翌日に目を覚ました。真実が命を救ってくれた。  伊勢谷は殺人罪で逮捕され現在裁判中だ。殺されたのは会員制ラウンジのホステス中村由華二十六歳で、店では清華と名乗っていた。  伊勢谷は複数の女と関係を持っており、清華もそのうちの一人だった。だが、清華は伊勢谷の子を身籠った。伊勢谷と清華は堕胎の話で揉めて、カッとなった伊勢谷は清華を絞殺(こうさつ)し、自宅で遺体を十個に切断した。伊勢谷の供述では、丈が一回目にC市に捨てたのが頭部だが、まだ発見には至っていない。清華は伊勢谷が認知しなくとも、田舎で一人で育てると親しい友人に語っていた。だがそれは叶わなかった。  伊勢谷に続いて丈も遺体遺棄容疑で逮捕され、共謀の線も疑われたが証拠不十分で釈放された。しかし、不法投棄で再逮捕され、懲役六ヶ月、執行猶予一年の判決が下された。  すっかり懲りた丈は真面目に就職活動に励み、なんとか居酒屋の正社員の職に就けた。また、怪我の巧妙で真実とも復縁できて新居で同棲生活を送っている。  もちろん真実には心から謝罪し、お詫びの品も渡すと言ったが、その分借金を返せと叱られた。しっかりした女だ。  仕事から帰ってきてアパートの部屋の明かりを見るとホッとするし、三人分稼がねえとと気合も入る。 「ただいま」とドアを開けると、 「おかえりなさい」と真実が、やわらかい笑顔で迎えてくれる。  これからもこの笑顔を守って、真実と生まれてくる子どもに幸せを運び続ける。  それがオレ、運び屋ジョーの一生の仕事だ。 ー 終 ー
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