「ただいま」の声で夜中に目が覚めて

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     大学時代に俺が住んでいたのは六畳一間(ろくじょうひとま)、一人暮らし用のマンションだった。  ドアを開けると、まずは短い廊下みたいな部分があり、その右側にバス・トイレ。左側にはコンロや流し台などが設置されており、一応ここがキッチンスペースなのだろう。  そんな「短い廊下」の先には、メインの居室となる6畳のワンルーム。この手の「一人暮らし用」にはありがちな間取りだった。  当時の俺の認識ではワンルーム・マンションだったけれど、厳密には「ワンルーム」でなく「1K」と呼ばれるタイプらしい。俺の部屋の場合、キッチンスペースの廊下と6畳の居室が曇りガラスの引き戸で仕切られていたので、それらが別々の空間という扱いになるそうだ。  世の中には「六畳一間」を「狭い」と感じる人もいるようだが、俺にとっては十分な広さだった。初めての一人暮らしともなれば、そこはいわば自分の城。よほど大きな問題が発生しない限り、どんな「城」でも満足だったのだろう。  大学4年間、俺は快適に暮らし続けたわけだが……。  一度だけ、ちょっと怖い目に遭遇したことがある。  その部屋で暮らし始めて3年目、蒸し暑い真夏の夜の出来事だった。    
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