「ただいま」の声で夜中に目が覚めて

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     掛け布団を跳ね()けるようにして、ガバッと上体を起こす。  キッチンスペースとの境界となる引き戸は()けっ放しの習慣だったので、そちらを見れば、声の(ぬし)が視界に入ってくる。  大学生というよりも社会人だろう。俺より少し年上っぽい女性だった。  端正な顔立ちに、軽くウェーブのかかった長い黒髪。カジュアルドレスらしき青いワンピースはノースリーブで、胸元も大きく()いている。  大学生の俺は当然その手の店とは無縁だけれど、それでも何となくわかるくらい独特な、水商売の雰囲気を漂わせていた。  彼女は流し台の方ではなく、こちらを向いていたので、俺と目が合う。  不思議そうな表情を浮かべるその顔には、見覚えがあった。何度かエレベーターで一緒になった女性だ。  記憶を辿れば、俺が3階から乗り込む時には既に乗っていたり、俺が3階で降りた後もまだ乗っていたり。つまり同じ階の住人ではなく、4階か5階のはずだった。  だから、その点を問いただしてみる。 「部屋を間違えていませんか? ここは302号室ですよ」 「あら、ごめんなさい。私、402号室に住む者でして……」  そんな説明よりも、早く出ていって欲しい。  口には出さなかったけれど、顔には表れていたのかもしれない。  俺の気持ちが通じたらしく、彼女はもう一度「ごめんなさい」と頭を下げてから、くるりと背を向ける。胸元だけでなく、背中側も露出面積の激しいワンピースだった。    
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