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「君のことが好きです」
まだ彼女は彼を見つめて言葉を続けている。その眼差しは一直線。
彼は一度キョロキョロとしてから。自分を指さして「俺?」と聞く。
もう彼女は言葉を無くしてコクリとだけ頷く。
「困ったな」
彼はそう呟いて彼女から視線を移す。
「あははは、ごめんね。素直に断ってくれて構わないよ。そうだよね。あたしなんかじゃダメなんだね。ガサツだし、美人でもないし、優しくもない。もっと素敵な人が良いよね」
笑っているのに涙の雨はやまない。どうしてだろう、やっと告白できたのに、望んでいたことなのに、後悔している。そうか、恋が破れたからなのか。彼女はまた泣き始めた。
泣いていると「違うよ」なんて言葉が聞こえて彼のほうを向く。滲んだ景色の中に膝を抱えそこにあたまを置いて横を向いている彼の姿がある。
「俺のことを君が好きだなんて思ってなかった。想像もしてなかったんだ。違う奴なんだと思ってた」
もう優しい言葉なんて聞きたくない。優しいのは昔から知っているんだから。それだから好きなのに。
「その告白が叶わなかったときに話そうと思ってたんだ。俺が君を好きなことを」
急に彼の声が頼りなくなっている。けど、彼女はそんなことを気にする余裕もなくただ嘘みたいに彼を眺めていた。
滲む景色。夢みたいな状況。昔の思い出と重なる。
「ずっと好きだったんだ。もっと昔に告白しておけばって思ってた。うん。でもそうだな」
彼は立ち上がると彼女に手を伸ばす。
「俺と付き合ってくれない? どんなことがあったってもう手を離さないから」
涙を袖で拭った彼女は彼を見上げる。少し照れくさそうな顔。それでも勇気だけで手を伸ばしている。
「お願いします」
小さく語ると彼女は手を取って立ち上がる。
どちらも望んでいながら語らなかった恋が結ばれる。
二人にまだぎこちない笑顔が見えるけど、それはこれからの笑顔になるんだろう。
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