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夕飯は体調が悪い雪那を気遣い、穂積と那月と理央が雪那の部屋に食卓をセッティングし、皆で話しながら食べた。
雪那はベッドに備え付けのテーブルでお粥を少し口にした他は栄養補助食品の紙パック飲料を飲むにとどまった。
食後のコーヒーを飲み終えて穂積が席を立つと雪那が言った。
「穂積さん、私がひとりにならないようお気遣いくださり、ありがとうございます」
「いえ、そんな」
「私には理央さんが付き添ってくださるので、那月のことをお願いしてもいいですか?」
それを聞いて那月は母を見た。
「母さん……」
「こちらに来て初めての夜だもの。穂積さんから色々聞いておきたいことがあるでしょう?」
「そうですね。ここでの暮らしに困らないよう色々レクチャーしましょう」
穂積がそう言うと雪那は微笑みながら頷いた。
「早速風呂に案内しよう。那月、おいで」
「じゃあ母さん、また明日」
ふたりが部屋の入り口で挨拶すると雪那は理央と一緒に手を振った。
「おやすみなさい」
穂積と並んで長い廊下を歩きながら那月は俯きながら呟いた。
「母さん、無理してるんじゃないかな。ほんとは体、辛いはず」
「そうだな。医師によく眠れるような薬の処方をお願いしたから、ゆっくり体を休めてほしいな」
「穂積さん……母さんのこと、何から何までありがとう」
那月が呟くと穂積はその手を握り、優しく微笑んだ。
「那月のお母さんは俺にとっても大切な存在なんだから当たり前のことだよ」
「今だけじゃなくてあの晩からずっと穂積さんは母さんのこと気遣ってくれて、守ってくれてて。俺、本当に嬉しいんだ。俺ひとりだったら母さんにここまで手厚くしてあげられないから……」
「那月……」
「ありがとう、穂積さん」
自分を真っ直ぐ見つめながら素直な気持ちをぶつけてくる恋人が可愛過ぎて、いじらしくて、穂積は思わず那月を抱きしめていた。
「いつでも1番に俺のことを頼ってほしいんだ」
「うん」
「絶対ひとりで抱え込まないで」
「穂積さんもね」
那月に言われて穂積は目を丸くする。
「俺?」
「俺だって穂積さんのために何でもしたいって思ってるんだから。ひとりで抱え込まないって約束して」
「……まいったな。最高の殺し文句だ」
そんなことを言われたのは初めてで穂積は嬉し過ぎてクラクラした。
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