夢から醒めても。

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 夏休みが明けた新学期初日、登校してきた那月を見てもクラスメートも教師も最初は誰だかわからなかった。  それくらい那月は劇的な変化を遂げていた。  以前は伸び放題で表情すら見えなかった髪がすっきりと整えられ、吸い込まれそうな大きな黒い瞳と透けるように白い素肌が顕になり、隠されていた美貌に誰もが目を奪われた。  他人と関わらず、人を寄せつけず、常に俯いて目を伏せていたのが真っ直ぐ前を見れるようになっていた。  いまでは逆に相手をじっと見る癖がついていて、那月に見つめられた相手は男女問わずその美しさや無邪気さに魅せられ、見入ってしまうのだった。  「君のは天然で自覚がないから、誰彼かまわず虜にしてしまいそうで心配だ」  穂積はそう言ってやきもきする。  以前は経済的に余裕がなく、学校までは結構な時間をかけて自転車で通学していたが、今住んでいる穂積のマンションからは電車でひと駅なのだが……。  「君みたいに綺麗な子が電車なんかに乗ったら色々な意味で危ないから、絶対にだめだ」  と言って穂積が断固反対し、電車通学を断念した。  ならば以前のように自転車で通学すると言うと、  「交通事故に巻き込まれるかもしれないから、絶対にだめだ」とこれまた断固反対された。  結果、那月は毎朝左京が運転する車で学校近くの公園まで行き、そこから数10メートルだけ歩くという形でなんとか穂積を説得したのだった。  「初孫が可愛くてしかたないおじいちゃんか⁈」  マキは那月のことになると何に対しても過保護になってしまう穂積のことをそう言って揶揄する。  穂積と同じように澪を溺愛し、過保護に見守っている悟に言わせると「普通だろ」ということになるのだが。  穂積、悟、澪、マキ、双子。  全員が那月より年上で過保護で心配性なので、那月はまわりから可愛がられ、心配され、溺愛されながら幸せな日々を過ごしていた。
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