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雪那の最期を看取り、彼女の希望どおり遺灰は海に散骨した。
その間もずっとそばには穂積がいてすべてのことを手配し、那月の支えになってくれていた。
雪那が逝って以降、那月は穂積が所有しているマンションで一緒に暮らしている。
最上階のフロアで悟と澪の部屋とは隣同士だ。
週末以外、用事がない限り夕飯は毎晩穂積たちの部屋で4人で食べている。
料理の腕前がプロ級の双子が食事を作るが、那月も学校が忙しくない時は双子を手伝い、何か1品作ったりする。
穂積が喜ぶからだ。
以前と違い、今は穂積が那月にかかる学費や生活費をすべて出してくれているので、みすぼらしい格好やひもじい思いをすることはない。
それどころか都内の億ションの最上階に住み、毎日高級車で送迎してもらって通学しているのだから、最低限の生活も出来なかった以前と比べたら雲泥の差がある。
生まれながらに貧乏な生活しか知らない那月にとって穂積との暮らしは驚きの連続だ。
大きくて広いマンションの部屋や立派なエントランス、カードキーや防犯システムなどにはいまだに慣れない。
母の病気や葬儀全般にかかった費用に加え、最初に助けてもらった時の500万のことが気がかりで、那月はバイトをして少しでも返したいと申し出たのだが……。
「バイトなんて色々危ないから絶対にだめだ」のひと言で却下された。
「君は事実上俺と結婚したんだから俺が君を養うのは夫として当然のことだ。君はまだ未成年なんだし、それに」
ーーこれから一生君の初めてを奪うのは俺だし、永遠に離すつもりはないから。
そう考えたら500万じゃ安すぎる。
穂積はそう言って榛色の瞳を細めて笑った。
今日は衣替えの初日で久しぶりに制服のブレザーに袖を通した。
あの晩元いた家にすべてを置いて出て行ってしまったので、制服も学用品もすべて穂積が買ってくれた新品だ。
穂積は朝から那月のブレザー姿に大興奮して大変だった。
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