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学校を終えて那月が左京との待ち合わせ場所である公園まで歩いて行くと、黒塗りの高級車の横には左京ではなく穂積が立っていた。
「おかえり那月」
穂積は制服姿の那月を眩しそうに見つめて微笑んだ。
「ただいま」
那月もまた挨拶をしながら穂積の立ち姿に見惚れる。
ただ立っているだけなのに絵になり、誰もが見惚れてしまうその美貌に、那月に向けて蕩けるような微笑まで追加されたらもう堪らない。
「那月?」
「……好きすぎて……辛い……」
那月がポソリと呟くのを聞き逃さず、穂積はその手を引いて半ば強引に車に乗せるとドアが閉まった瞬間キスをした。
「……んンッ、穂積さんだめ……まだ、外……」
「そうやって無自覚に君が煽るからこうなってるんだよ?」
穂積は車の後部座席に那月を押し倒し、噛みつくようなキスを繰り返す。
「……ん、あッ、待っ……」
「待てない。ちょっとだけだから」
やけにきっぱりそう言い切る穂積に那月は内心苦笑する。
「……あ、んぅッ」
舌を絡めながらの濃厚な口づけに那月は喉を反らして反応した。
「君のブレザー姿が可愛すぎて……俺も辛い」
耳元にキスしながら穂積は低く甘く囁いた。
「……ンンッ……穂積さん……これ以上は、ほんとにダメッ」
熱く甘い吐息とともに那月は穂積の口に手を当てて強く抗議した。
「……わかった、ごめん。もうしない」
穂積は素早く那月から体を離し、胸の横で両手を上げる。
そうしないと那月が本当に怒り、口を聞いてくれなくなることをわかっているからだ。
マンションでの新婚生活を迎えるにあたり、穂積は那月に自分のことを甘やかさないでほしいと提言していた。
「今後のこともあるし、厳しくしてくれてかまわない。でないと俺はどこまでも君に溺れて無茶をしてしまうから。これからは学校もあるんだし」
それでも那月を前にすると簡単に理性と自制心が崩壊し、何度かやらかしてしまったことがある穂積は慌てて言う。
「俺のこと嫌いにならないで、那月」
那月は穂積の体の下でため息とともに呆れる演技をした。
「夕飯の買い物につき合ってくれるなら許してあげる」
あくまでも演技だ。
本当は那月だって穂積に求められるのはいつだって嬉しいのだから。
那月がそう言うと穂積は表情を引き締め、紳士的に答えた。
「仰せのままに」
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