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「まだ中学生だったんでしょ?孤児院を出て、それからどうやって……」
那月の問いに穂積は苦笑しながら答えた。
「何でもしたよ。いいことも悪いことも。俺とマキは年齢がほとんどかわらなかったから、悟に食べさせるためにはふたりで何でもやった。俺は頭を使うことで稼ぐのが性に合ってた。そうこうしているうちに久我と知り合って、彼に拾ってもらったおかげで今に至る、って感じかな」
特に悲壮感もなく淡々と語る穂積を見て、だからこそきっと辛い目にたくさん遭ったのだろうと那月は思う。
ーーだから優しいんだ。
「……そうだったんだね」
「ごめん、買い物デートの最中にする話じゃなかったね」
「買い物デート?可愛い言い方」
那月がそう言うと穂積は嬉しそうに笑った。
「那月、そのパン半分こしようか」
「うん」
那月はふたりにとって懐かしい菓子パンを買い物カゴの中にそっと入れた。
その後、お菓子の棚やできたて惣菜の棚にいちいち引っかかり、何でもかんでもカゴに入れたがる穂積を抑えながら那月は買い物デートを楽しんだ。
そして店を出て立体駐車場を車に向かって歩いている時に穂積が抱えている買い物袋からのぞいている菓子パンを見た時、那月の頭の中に不意にある場面が浮かんできた。
「那月はそのパンが好きね」
思い出の中の母はまだ若く、優しい顔をして幼い那月の頭を撫でた。
「半分くれるの?那月はとっても優しい、いい子ね。お母さん、那月のことが大好きよ」
ああ、だからこのパンが好きだったんだ。
ただ安くて大きいからじゃない。
思い出した。
母さんとよく半分こしたからーー。
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