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黒猫と白ウサギに変身してみた。
その日、穂積と悟は仕事で外に出ていた。
思ったより話が長引いてしまったが、朝、出がけに澪がしきりに「今夜は絶対みんなで夕食を食べられるようにして!」と繰り返していたので穂積と悟は19時帰宅の約束を死守した。
玄関チャイムを鳴らすと部屋の奥からバタバタと走ってくる複数の足音がして、中から勢いよくドアが開けられた。
「トリックオアトリートぉッ!」
頭に黒い猫耳、首に大きな鈴のついたチョーカー、そして黒猫の着ぐるみを着た澪が大きな声で言い、すかさず那月が突っ込みを入れる。
「澪、それ違う。もう1個の方だよ」
「あ、間違えた。お菓子をくれなきゃイタズラする、ぞ?」
「……いや、だから……」
澪と那月がもだもだやっているのを穂積と悟は黙って見つめ続けた。
ふたりのあまりにも可愛らしい仮装に釘づけで出迎えの台詞なんてどうでも良かった。
「あ、そっか」
「せーの」
「ハッピーハロウィン!」
ようやくハモりながら台詞が決まり、ふたりは手にしていたクラッカーを恐る恐る引っ張った。
パパ〜ン!と弾けたクラッカーのカラフルなリボンと紙吹雪を穂積と悟は黙って受け止めた。
そんなふたりの足元では猫耳だけをつけた右京とウサ耳だけをつけた左京が廊下にゴミが散らからないよう、すぐさまホウキとチリトリをかけるのだった。
「……俺の……ウサギ……」
穂積は玄関ドアが開いた瞬間からずっと那月だけを食い入るように見つめていたが、澪が悟の手を引いて先に室内に入ったタイミングで堪らず呟いた。
那月は頭に白いウサ耳をつけ、首に澪とお揃いの鈴付きのチョーカー、そして真っ白でふわふわのウサギの着ぐるみを着た状態で穂積に思いきり抱きしめられた。
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