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借金のカタに攫われてみた。
世の中は夏休みだ、バカンスだ、ひと夏の恋だと浮かれているが、田野倉那月には関係のないことだった。
高校2年の現在に至るまで友人も出来ず、一切の羽目をはずすことなく静かに生きてきた。
生活能力が無く脳みそがスカスカな両親のせいで、幼い頃から引越しと転校と苗字の変更を何度も繰り返してきたため、那月は無気力、無感動な人間に成長した。
常にお腹いっぱい食べられる環境にないので痩せっぽちで、身なりに金をかけられないため髪はボサボサで伸び放題。
肌艶も悪く「死んだ魚のような目をしている」と言われる始末だ。
度重なる転校と引越しの経験からトラブルを避けるため、他者との関わりを持たず、できるだけ目立たぬように気配を消すことで自分の身を守ってきた。
狭くて汚い家にいると気が滅入るので、那月は学校以外では1日の大半を図書館で本を読み漁って過ごしていた。
梅雨の明けきらない夏休み初日も、那月はいつものように冷房の効いた図書館で閉館時間の午後9時まで粘るつもりだった。
しかし夏休みともなるといつもは静かなその場所に小さな子どもや複数で騒ぐ学生たちが溢れ、那月は唯一のオアシスを失いつつあった。
100均で買ったワイヤレスイヤホンでスマホの音楽を聴き、ひたすら本の世界に没頭するしかないのだが、親が通信料の支払いを滞納するとそれも出来ない時がある。
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