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「辛い?」
那月は黙ったまま小さく首を横に振る。
きゅっと結んだ唇から泣くのを堪えている様子が窺える。
「那月?」
「せっかく何日も前から澪や左京たちと準備して、途中まであんなに楽しかったのに……あとのこと覚えてないなんて……」
可愛らしい理由で泣きそうになっている恋人に穂積は表情を崩した。
「またパーティすればいい。今度は俺にも買い物のお供をさせてほしいな」
「うん……」
首まで布団に潜っている那月の額に穂積はそっとキスした。
そこでようやく那月が細い両腕を伸ばして穂積の首に絡め、黒く潤んだ瞳で訴えた。
ーー唇にキスして、と。
穂積はすぐさまそれに応え、羽根のように優しい口づけを那月の唇に落とした。
「……ん」
那月は閉じていた唇を薄く開いて小さな吐息を漏らし、穂積のさらなる口づけを誘ったが……。
「……頭、痛い……」
「ごめんね那月。俺が夕べ無理させたから……」
そう言うと穂積は唇を離し、至近距離で見つめながら大きな手をそっと那月の額に当てた。
「そんなに盛り上がったんだ」
「那月がすごく積極的で艶っぽくて……たまらなかった。それでまた俺の理性が吹っ飛んで無理させちゃったんだ……ごめん」
「……ふぅん」
那月の拗ねたような瞳を見て穂積は慌てる。
「怒った?」
「ううん。酔って穂積さんのこと誘惑した昨夜の自分に嫉妬してるだけ」
「……え?」
俺を誘惑した自分に?
嫉妬?
「だって、今の俺は何も覚えてないのに、酔っ払ってた俺はすごく悦かったって穂積さんに言われてるんだもん」
「……なんでそんな……可愛いことばっかり次から次へと……」
穂積は頭痛とは違う理由で頭を抱えたくなったのだった。
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