829人が本棚に入れています
本棚に追加
赤と緑に囲まれてみた。
12時をだいぶ過ぎた頃、パジャマの上にモコモコのカーディガンを着せられた那月が穂積に抱えられてダイニングに顔を出すと、左京は黙ったまま那月に近寄って頭を撫でた。
「おはよう左京……って言ってももう昼過ぎだね」
それを聞いた左京は那月を抱きかかえている穂積を睨んだ。
「……那月は何も悪くない。そうです、俺のせいです。すみません」
左京は穂積に冷たい視線を向けたあとダイニングテーブルを指差した。
「わ、しじみ汁作ってくれたの?」
那月が嬉しそうにそう言うと左京は黙って頷いた。
「そっか、二日酔いにはしじみ汁が効くって聞いたことある。ありがとう左京」
那月が微笑むと左京は再び頷いてみせてからキッチンに引っ込んだ。
「……相変わらず俺のことはガン無視か」
穂積はそう言いながら那月をダイニングチェアに座らせた。
「でもちゃんと穂積さんにはしっかりしたお昼ごはんを用意してくれてるよ?」
那月が言うとおり穂積の席にはしじみ汁の他に青じそとイカと明太子の和風パスタ、温野菜サラダなどが彩り良く並んでいる。
那月にはしじみ汁と、小さな深皿にたまご粥が用意されていた。
初めての二日酔いで正直食欲がなかったのだが、那月は九条ネギがたっぷり乗ったしじみ汁をひとくち飲んで幸せなため息をついた。
「……あぁ……沁みるぅ……」
しじみ汁のおかげで身も心も温まった那月はそのままレンゲを手にして、たまご粥にも口をつけた。
「優しい味……」
那月が感動するのを見て穂積がキッチンに向かって「左京、俺もたまご粥……」と呟くも、左京は無表情のまま首を横に振るだけだ。
「…………」
穂積がしょげると那月は苦笑しながらたまご粥をレンゲにすくい、フーフーと息を吹きかけて冷ましてから、
「穂積さん、アーン」
と言って差し出した。
「那月……ッ」
穂積は思いがけず恋人から初めて「アーン」をしてもらうことになり、歓喜に震えたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!