赤と緑に囲まれてみた。

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 那月が学校から帰ってくる前に、しかも穂積と悟が穂積たちの部屋で仕事をしている間に澪は自室のキッチンでiPadを見ながら数時間格闘した。  右京がハラハラして何度か手伝おうとしたのだが、澪が「ひとりでやってみたいから」と言うのでリビングまで下がって見守った。  仕事が一段落した悟が部屋に戻ってくると玄関を開けた途端焦げ臭い匂いがして首を傾げる。  そしてリビングのドアを開けると「うっうっ」と澪が声を殺して啜り泣く声が聞こえてきて慌ててキッチンに駆け寄った。  キッチンの流し台の前で澪は両腕で顔を覆いながら肩を震わせて泣いていて、右京が困り果てた顔をしながらヨシヨシとその細い背中を撫でていた。  「……ど……」  悟はどうしたと聞こうとしてキッチンに足を踏み入れ、すぐに事態を理解した。  そこがまるで戦場のようになっていたからだ。  シンクの中はいくつものボウルやおたま、泡立て器や皿などが山積みになっていて、床も壁もベタベタした液体で汚れ、作業台の上には小麦粉が飛び散り、木ベラやまな板、クッキー型、スプーンや皿などが散乱している。  とどめに焦げ臭さの原因となるオーブンの中を覗くと、盛大に焦げて原型を留めていないがクッキングシートにこびりついて並んでいた。  悟は作業台の上に散らばっているツリーやサンタ、ジンジャーマン、ハートなどのクッキー型を見て目を細めた。  「那月を励まそうとしてクッキーを焼いたのか?」  悟が澪に近づくのを見て右京は席を外した。  優しい腕が澪を抱き寄せると厚い胸に顔を埋めて消え入りそうな声が呟いた。  「そんなのクッキーじゃない……ただの炭だよ」  それを聞いて悟は小さく笑い、パキンと音を立てて何かを齧った。  「ちゃんと小麦の味がするぞ」  頭の上でボリボリとすごい音が鳴るのに驚いて澪が顔を上げると、悟はその手に半分生で半分焼け焦げたクッキーの成れの果てを持ったまま笑った。  オーブンの中の炭化したものではなく、その前に焼いた物だ。  「……やだ、そんなの食べたらお腹壊す……」  そう言って澪がソレを取り返そうとするのをやんわりと留め、悟はバリバリいいながら噛み砕き、ごくんと飲み込んでしまった。  
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