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「甘過ぎないから俺でも食えた」
そう言って嬉しそうに笑う悟を見て澪は顔をクシャクシャにして泣いた。
「……悟さんのバカ、それ、甘過ぎないんじゃなくて味がしないんだよ……焦げてるし、生だし……そんなの……」
「でもおまえが生まれて初めて自分ひとりで作った菓子だろ?それは誰にも譲れない。俺が1番に食べないとな」
そう言って悟は長身を屈めて澪の髪にキスした。
「……那月みたいに、上手くできない……せっかく……ツリーに飾ろうと、したのに……」
澪は悟の胸を小さな拳でポカポカと叩きながら泣いた。
「那月をびっくりさせたいのに……笑ってほしいのに……俺、ポンコツで……」
悟は澪の両手首を掴んで顔を覗き込みながら優しい声で言う。
「澪、そんなことない」
「もうやだ!」
「澪」
悟は暴れようとする澪の唇をキスで塞ぎ、小さな身体が折れそうなほど強く抱きしめた。
「そんなことない。那月はおまえが自分のために一生懸命してくれたことを知ったらそれだけで嬉しいはずだ」
「……でも」
「少なくとも俺はまたおまえのエプロン姿が見られて、手料理も食えたから嬉しいが?」
悟が涼しげな切れ長の眼を細めて笑うのを見て、ヒラヒラの白いエプロンに身を包んだ澪は泣き笑いの顔で言う。
「……ほんと……あんたは俺に甘過ぎ……」
そう言って澪がようやく笑みを見せると悟はその小さな額にキスをした。
「澪、ほっぺたに……」
「え?」
悟は澪の頬についた砂糖に唇を寄せて笑う。
「……甘い」
澪はそれを見てたまらなくなり、悟の唇に自分のそれを重ねた。
「……ほんとだ……甘い……」
キスをしたまま澪が囁き、悟の唇を子猫のようにペロリと舐め、ふたりの視線が甘く絡んだその時……
「ん、んん!」と右京が咳払いをしたのでふたりは抱き合ったままそちらを振り向いた。
「……なんだ右京、邪魔するな」
悟は不機嫌そうな声で抗議したが、澪は右京が手にしている物を見て一瞬で眼を輝かせた。
「ありがと、右京!」
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