借金のカタに攫われてみた。

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 幸い友人はいないので通話ができなくても問題はないのだが、動画を観たり、音楽を聴いたり、暇つぶしにゲームをしたりするにはやっぱりスマホが必要だ。  ひどい時はスマホどころか電気やガスまでもが止められて、人間としての最低限の生活すらままならないこともある。  最も悲惨なのが水道を止められることだが、そんな時でも脳みそがスカスカな両親は那月に「公園の水道から水を汲んで来い」と言ってヘラヘラ笑っているのだった。  最近は光熱費や通信料の滞納もなく、親からまとまった小遣いをもらうことが出来たので、那月はその金を節約しながら大事に使っていた。  毎月決まった小遣いなどもらえるはずもなく、全ては親の気まぐれなので、少しでもまとまった金が手に入ると那月はそれを親には絶対に見つからない場所に隠して慎重に蓄えていた。  その金で通学時の食事や交通費、自分の生活に必要なものを買うのだ。  好きなだけ音楽が聴けて、冷房の効いた空間で本が読めるだけで幸せだった。だがそれも閉館時間までのパラダイスである。  閉館を知らせる切ない音楽に追い立てられ、那月が図書館の建物を出る頃には空には月が輝き、あたりは真っ暗になっていた。
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