プロ帰宅部

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 最後に引退を迎えた部は野球部だった。  今年は大躍進を遂げて四回戦まで勝ち上がったが、神奈川の壁は高い。今日は名門OK高校との対戦となっていた。  同じクラスの上野くんがヒットを打ったが、じりじりと点差は離れていき、ついには九点差をつけられ五回裏の守りを迎えた。ここで一点でも取られるとコールド負けとなる。  僕とミノべーがカメラを構えながら祈ったが、同級生のピッチャー清宮くんが満塁のピンチを作ってしまう。ピッチャーは二年生に交代した。  気温は三十六度を超えていた。  清宮くんは汗と涙でいっぱいになりマウンドを降りた。直後、交代した二年生ピッチャーはサヨナラタイムリーを浴びてしまった。  マウンドに二年生ピッチャーがうずくまる。三年生が帽子で顔を覆う。  僕たちの目の前でベンチ入りできなかった同級生三人が崩れ落ちていた。試合中、ずっと大きな声で応援していた。ベンチに入れなくとも、声を枯らして最後の瞬間まで立派に役割を果たした。  三年生はもう部活はできない。  下級生たちはもう三年生と部活ができない。  その涙にまみれながら、野球部は立派に整列した。  今までどの部でも同じ光景を見た。胸が締まり、身体の中心から熱が込み上げてくる。熱は喉を熱くして僕の涙腺を緩ませた。 「ニッシー、最後だ。急ぐぞ」 「うん」  僕とミノべーがコンビニへ走る。僕たち帰宅部の活動もこれが最後だ。  急いで写真をプリントアウトし、ミノべーは大きい用紙に貼り付けていく。僕は百均で買ったアルバムに個人用の写真を収めていく。 「よし、急ごう」 「うん」  球場へ戻ると、最後のミーティングが解けた後だった。 「野球部、お疲れ様」  ミノべーが声をかけ、二人で大きな用紙を広げる。野球部三年生の写真が用紙いっぱいに貼られている。 『野球部三年生の軌跡』 「上野、清宮、中居、鵜瀬、高津、中山下、西野、立花、渡邊、お疲れ様」  ミノべーの声に合わせて僕が九人の同級生にアルバムを配る。 「野球部は最高だった。胸を張って元気よくただいまと家に帰ってくれ」  同じクラスの上野くんと清宮くんが乾いた涙の跡を残したまま微笑んだ。 「美濃部、中島たちから聞いた。これがプロ帰宅部ってやつか」 「そうだ。俺とニッシーは最高の帰宅を誘うプロだ」  ベンチ入りできなかった鵜瀬くんと西野くん、渡邊くんの三人が自分のアルバムを見せ合って笑っていた。  それを見た清宮くんが輪に入る。三人と肩を組み、清宮くんは三人にありがとうと言った。 「美濃部、西村。いいじゃん、プロ帰宅部。ありがとうな」  僕とミノべーは顔を見合わせて照れ合った。  三年生だけで肩を組み合い、野球部は球場を後にした。見送る僕たちのほうを最後に振り返り、手を振ってくれた。 「ニッシー、終わったな」 「うん、帰宅部おもしろかった。充実してた」
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