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ミノべーは大きな紙をせっせと貼り合わせていた。
「何するの、それ?」
僕が話しかけると、ミノべーはまたバッグの奥底から樹脂製のケースを取り出してジッパーを回し、中からスマホを取り出した。
「やっぱり不便じゃん」
「俺が持っている中で一番高価だからな」
「不便だよ」
ミノべーは意にも介さず、スマホの画面を僕に見せた。画面には様々な学校の風景が映っている。ほとんどが部活を見学したときの写真だ。
「ニッシー、見てくれ」
ミノべーはそのうちの数枚を僕に見せた。写真はすべてハンド部の落合くんだった。
コートでモップ掛けする姿。
ボール箱を運ぶ姿。
対戦相手の監督に頭を下げている姿。
「ハンド部で中島たちが活躍する裏に落合の献身がある」
ミノべーが収めた落合くんの写真は心に伝わってくるものがあった。
「ニッシー、これからすべての部活を見学してその風景を写真に収める。社会は主役だけで成り立っていない。脇役もいれば裏方もいる」
「それが帰宅部の活動ってこと?」
「まあ、そうだ。でも本番じゃない。本番はまだ先だ」
「……ふうん」
それからの僕たちは毎日部活を見学し、三年生を中心にカメラに収めた。
ファインダーを覗いた先に今まで見えなかった風景が広がっていた。
柔道部では一番身体の大きな斎藤くんが投げられ役に徹していた。
女子バスケ部ではクラスであまり目立たない石本さんがずっとゴール下にいた。外れたボールを素早く返して一本でも多くシュートを撃たせようとしていた。
陸上部の茶谷くんは録画した映像を細かくチェックして、エースの島田くんの走りを分析していた。
「この写真をどうするの?」
僕が尋ねると、ミノべーはB5の手帳を取り出し、うーんと唸った。
「今週末からインハイ予選が次々に始まる。来週、ハンド部が最初となるかもしれん。なにせ相手が強い」
僕は首を傾げながらその来週とやらを待った。
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