プロ帰宅部

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 ハンド部の二回戦の会場に来ていた。ベンチから叫ぶ落合くんの声が会場に響いていた。  試合時間はあと五分を切っていた。中島くんがディフェンスの上からシュートを放ったが、キーパーにキャッチされて速攻を受ける。 「戻れっ! ディフェンス! ディフェンス!」  落合くんが立ち上がって必死に声をかける。その大きな声もむなしく、相手のシュートが決まった。  試合時間は残り二分を切った。 「ニッシー、行こう」  ミノべーが席を立って僕の肩に手を置いた。 「え? 最後まで見ようよ」 「この点差を二分で追いつくのは不可能だ。それに、ハンドの顧問は話が短い。俺たちの仕事が間に合わない」 「そんなの、まだ分かんないじゃん」 「俺だって見たい気持ちは山々だが時間がない」  何のことだかさっぱりだが、僕はミノべーに引きずられるようにコンビニへ向かった。 「急いで今日の写真を印刷して貼るぞ」  ミノべーは大きく貼り合わせた用紙を広げた。  『ハンドボール部三年生の軌跡』  と、書いてある。  ミノべーは印刷した試合の写真を貼りつけ、真ん中に大声で仲間を鼓舞する落合くんの写真を貼りつけた。 「よしっ、行こう」  ドタバタとまた引きずられるようにコンビニを出て会場に戻った。  最後のミーティングが終わっていたようだ。ハンド部は泣きながら肩を落としていた。  ミノべーはその中心にいる中島くんに歩み寄った。 「ハンド部は素晴らしかったぞ!」  突然の大声に中島くんたちが驚いている。 「ニッシー、そっち持ってくれ」  言われるがまま僕は先ほどの用紙の端を持って広げた。ハンド部が唖然としている。 「今日の試合の写真だ。俺もニッシーも感動した。中島は今日もチームを引っ張った。益子は難しいシュートを決めた。村林は何度も身体いっぱいでシュートをとめていた。そして……」  ミノべーは後ろのほうに佇む落合くんを見た。 「落合は今日も試合前に相手チームへ挨拶に行き、今日も力いっぱいに応援していた。ハンド部がここまでのチームになれたのは落合の献身があったからだと、俺は感動した」  皆が用紙中央の落合くんの写真を見ていた。身体を仰け反らせて声援を送る落合くんの写真だ。その横にもう一枚、落合くんだけ二枚目の写真がある。コートに溢れた汗を雑巾で拭く写真だった。
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