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「肩を落として帰宅なんかさせねえ。三年間、表で輝いたヤツも陰で支え続けたヤツも、みんな頑張った。心を、胸を、いっぱいにして、この部活で三年間一緒にやってきた仲間を大切に想い、万感の想いで家に帰ってくれ。そして……ここまで育ててくれた親御さんに胸を張って、ただいまと言ってくれ」
大統領選挙のように熱いミノべーの演説だった。
ハンド部の中島くんが目もとを拭った。それにつられるように、他の三年も涙をこぼした。落合くんが声を出して泣き崩れた。
「落合」
キャプテンの中島くんが落合くんに近づいた。中島くんは落合くんを抱きしめた。
「ずっと支えてくれてありがとう」
落合くんはうんうんと頷いて嬉しそうな笑顔を見せていた。
顧問の先生がミノべーに歩み寄り、頭を下げた。
「写真部か。ありがとうな」
ミノべーは先生に向かって、チッチッと指を左右に動かした。
「写真部じゃないんですよ。帰宅部です。プロの帰宅部。最高の帰宅へ誘う部です」
先生は一瞬ぽかんと口を開けたが、写真にまた目を移すと、ミノべーと僕の背中をやさしく叩いた。
それから、サッカー部、柔道部と残念ながら敗退した部に僕たちは同じことをした。どの部の同級生も感謝してくれた。
男子も女子も関係なく、三年間頑張った歴史はみな一様で、僕らプロ帰宅部の活動は皆を感動させたようだった。
僕は中学の部活で報われなかったと感じた。僕だけ不幸だった。なんて思って、高校では部活に入らなかった。
でも、それは僕だけじゃなかった。
どの部にも、まとめる人がいたし、目立つ人がいて、陰で支える人がいた。チームは間違いなくそれで成り立っていた。
プロの帰宅部。
最高の帰宅をさせる部。
突拍子もないミノべーからの発言は、たしかにその目的を達成した。
「ミノべー」
「ん? なんだ、ニッシー」
「やっぱミノべーは宇宙人だけど最高だよ」
一緒に卓球部の最後を見届けた帰り道、僕は思わずそう呟いた。
「俺にとってもニッシーは最高だ。そして、みんなも最高だ。この高校に通う同級生たちの輝きを見た。みんな最高だ」
ミノべーは宇宙人じゃなく、宇宙のような人なんだと、僕はふいと笑った。
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