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「はい、これ」
ミノべーが一冊のアルバムを手渡してきた。
「え、何これ?」
「ニッシー、俺からお願いがある」
ミノべーの表情は真剣そのものだった。
「ただいまと元気よく帰って、そのアルバムを親御さんに見せてほしい」
めくったアルバムにはいつの間に撮ったのか、教室で笑う僕やハンド部の中島くんを撮影する僕、空を見ながら歩いている僕なんかが収められていた。
「いつ撮ったの、こんなの」
「自然の姿を収めたくて隠し撮りをしたんだ。高速でカバンを漁ったよ」
「やっぱ不便じゃん」
僕は笑いながら、すこし恥ずかしいアルバムをめくった。
「言ってなかったけど、俺も中学まで野球部だった。練習しても下手なままでさ。でも、親は試合があるたびに見に来てくれた」
「そうだったんだ……」
「ニッシーは中学の部活を引退したとき、ただいまと大声で言わなかったと思う。俺もそうだったから。俺は後悔したんだ。中学の最後の大会、俺は代打でも出番がなかった。ただいまと大きな声で帰れなかった。でも、親はいつも子供が元気に帰ってくることが嬉しいんだ。だから、今日は大きな声でただいまと言ってほしいんだ。そしてそれを見せてほしい。親御さんはその元気な声と普段見られない姿に安心するだろう」
ミノべーは照れくさそうに頭を搔いた。
「ニッシーがいてくれたから高校も楽しかった。俺はニッシーを産んでくれたニッシーの両親に感謝している」
こんなことを言う高校生は世の中にいるのだろうか。ほんとにミノべーは変わってる。
「ミノべーって、大人というか、もう親みたいだね」
「いや、そんなことはない。同じく十七歳だ。思春期の真っ盛りで、片思いだが恋なんかもしている」
「うっそ!! 誰? 誰よ?」
僕はまさかのひとことに興奮してミノべーを揺すった。
「ニッシーでも言えない。人は秘密を二、三は持っているものだ」
「いいから、誰?」
「言えない。秘密は美しいものだ」
「もう、いいから教えてよ」
「口を滑らせた俺のミスだ。今度、美味しいラーメンを奢るから許せ、ニッシー」
僕はしつこく聞いて、ミノべーはそれをしつこく避けながら僕たちは帰路についた。
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