プロ帰宅部

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 ミノべーの頭の中は宇宙だ。  たとえば昨日の出来事。 「ニッシー、ラーメン食べて帰ろう」 「うん、いいよ」  そう答えると、ミノべーはカバンを漁りだした。奥底から樹脂製のケースを取り出してジッパーをぐるりと開け、中からスマホを取り出した。 「なんでそんなとこに入れてんの?」 「俺が持っている中で一番高価だからな」 「不便じゃん」 「もし壊れたら、不便という言葉を越える言葉を作らねばならないほど不便になる」 「う、うん」  ミノべーはスマホで地図アプリを開いて「ラーメン」と打ち込み、画面に顔を近づけた。  ゆうに二十分が過ぎた。 「もう駅前の雷雷亭でよくない?」 「いや、ダメだ。ニッシーとラーメン食べるのは夏以来だろ? それにふさわしい店を見つけねばならない」  そう言いながらミノべーはさらに画面に食いつき、せっせと地図を動かしている。 「雷雷亭がいい! と言っても?」 「妥協はダメだ。俺は、ニッシーの、うまっ! を聞きたい。あ、美味しいね。ではダメなのだ」  ミノべーがスマホから顔を上げて僕をしかと見た。 「僕は、あ、美味しいね。で、いいんだけど」 「できれば、あ、柚子が効いてるね! などのニッシーを引き出せるのがベストだ」 「……もういいよ。早くして」  結局、僕らが学校を出たのは陽が沈んでから。乗り換えを含めて七駅も離れた住宅街の一角に場違いな行列を見つけた。 「晩ごはん時だから行列が長いな」 「選ぶのに一時間もかけるからじゃん」 「咄嗟に誘ってあまりの準備不足に自分で失望している。申し訳ないっ!」  ミノべーはそう言って直角に頭を下げた。  行列の人たちが深々と頭を下げるミノべーを見ていた。 「もういいから並ぼうよ」  そこから四十分並んだ甲斐あってか、食したラーメンは人生ダントツ一位に躍り出る美味しさだった。 「レンゲに乗ってるこのエビとろろってのがやっばいね! うまっ!」  うんうん、うんうん、とミノべーは嬉しそうに僕を見ながらラーメンをすすっていた。  スープをほぼ飲み干して水をぐびっと飲むと、僕たちはふいに後ろから声をかけられた。 「お? 美濃部と西村じゃん!」 「おー、ほんとだ。美濃部と西村! なんでお前らこんなとこいんの?」  大きなバッグを持った五、六人が僕たちの横を通り過ぎ、奥のテーブルへと向かう。ハンドボール部の中島くんたちだ。 「おお、中島。中島たちこそなんでここにいるんだ?」  中島くんはテーブルについて疲れたようにバッグを下ろした。 「合同練習だったんだ、この近くで」 「そうか。疲れたろ。ここはエビとろろ貝塩ラーメンがやべえぞ」 「そっか。じゃあ美濃部にのるか。すみませーん、エビとろろ貝塩ラーメンで」 「あ、俺も」 「俺もで」  ミノべーはハンド部のテーブルを見ながら小さく首をひねった。 「中島」 「お?」 「落合はいないのか?」 「落合? ああ、学校の門出てから別れたな」 「……そうか」  ミノべーは最後に水をひと飲みして席を立った。僕とミノべーはハンド部に手を振って店を出た。 「ミノべー、落合くんがどうしたの?」 「……んー、いや。なんでもない」  ミノべーは駅までの帰り道、あまり喋らず夜空の月ばかり見ながら歩いた。 「じゃあな、ニッシー」 「うん、また明日」
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