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1.最強戦士 追放される
エミシ国、王宮の謁見の間である。
玉座にはロムスカ王がいた。国の高官たちも同席していた。
対峙して立っているのは、最強の戦士として呼び声高い男、トシゾーだ。
戦士トシゾーは鬼より怖い、にっこり笑って人を斬る、と言われた。彼の技は兜割りと呼ばれた。トシゾーが斬った敵はすぐ分かる、頭が二つに割れている、と噂が絶えない。1つの合戦で10本の刀を使い折るとも言われた。
槍をとっても無敵と言われる。トシゾーが通った道はすぐわかる、敵が流した血が川になって流れている、と伝えられる。1つの合戦で20本の槍を突き折るとも言われたが。
弓を手にしても無双であった。トシゾーに射られた敵はすぐわかる、矢が貫通して胸と腹に穴ができている、と謳われた。1つの合戦で100本の弓の弦を切るとも言われた。
「トシゾーよ、その物言い、看過できぬぞ」
ロムスカ王は静かに言った。
「しかし、必用な事です!」
戦士トシゾーは身を揺るがすことなく答える。
王はゆるりと立ち上がった。右手を真っ直ぐトシゾーに向けた。
「これより、トシゾーから戦士の職業と全てのスキルを剥奪する!」
ばん、何かの衝撃が謁見の間に響いた。
びびーん、トシゾーは身動きできない。体が硬直してしまった。
国王ロムスカの職業は『統治者』であり、そのスキルは『カリスマ』であった。カリスマのスキル、職業転換が発動したのだ。
「トシゾーよ、おまえの新たな職業は・・・『土方』だ! 土と泥にまみれ、国の最底辺となれ!」
ががーん、新たな衝撃にトシゾーは倒れた。
ロムスカは痩せた体ながら、この職業とスキルで国に君臨していた。
だれも・・・王の決定に異を唱えない。何か言えば、国の高官にいる職業を剥奪される。スキルを失い、路頭に迷うことになる。
ある剣士が王に廊下で切りかかった。が、王は剣士の職業を乞食にしてしまった。以後、彼は街をさまよい、物乞いをするしかできなくなった。物盗りに蹴られ、刺されて・・・死んだ。
また、ある料理人が王の食事に毒を盛った。王は料理人の職業を汚物掃除人にした。以後、彼は料理ができず、掃除中に汚物から感染病をひろい・・・死んだ。
「つまみ出せ! 土方に豪華な鎧や剣は不要であろう、はぎ取ってしまえ」
王の命令に、兵士が倒れたトシゾーを囲んだ。
たちまち裸に剥かれる。
ずるずる・・・英雄であった男が裸で引きずられ、謁見の間から去った。
「さて、次の議題に移ろう」
王は玉座にもどる。
控えていた高官たちが前に出た。
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