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2.トシゾー土方レベル1
あ・・・・うう・・・
トシゾーは薄目を開けた。体が動かない・・・いや、動かし方を忘れてしまったかのよう。
「おっ、気がついたみたい」
声の方に目をやる。大勢に囲まれていた。
城の中ではない、木造の小屋の床に寝かされていた。身にある物は、わずかの布きればかり。
「ここは・・・」
「お城の外だよ。お堀端のミブにある土方処だよ」
「ミブの・・・」
見れば、答えた男は痩せていた。身にあるのは、トシゾーと同じく小さな布きれだけだ。
トシゾーは記憶を探る。都を囲む城壁があり、城壁に沿って掘り割があって・・・その外側にいると理解した。
掘り割の外側は、主に貧民街だ。都の治安を守るため、貧民は中に入れない。
土方処が城の外にあるのは、掘り割が埋まらないように、常に浚渫して深さを保つため。掘り割に泥が溜まると、水が腐敗して虫が湧き、疫病の元にもなる。
王が貧民に与えた仕事のひとつが、掘り割の維持だった。
「兵隊がおまえを運んで来た時は、少し驚いたもんだ」
「いい体、してんな。今まで、良い物を喰ってきたんだろう」
がはははっ、トシゾーを嗤いが囲んだ。
土と泥にまみれ、国の最底辺となれ・・・王の言葉が耳によみがえる。
板の床が震えた。足音を響かせ、誰かが近付いた。
「目が覚めたか、トシゾーさんよ」
大男が見下ろしてきた。細い目とぶ厚いアゴ、どこか見覚えがあった。
トシゾーは身を起こす。少し体が動くようになった。
「おれはコンドー、ミブの土方処で親方をやってる」
「こんど?」
聞き覚えのある名前だった。
「親方、この新入りを知ってるんで?」
横から裸の男が尋ねる。
「知ってるもなにも、昔、オレはトシゾーの下で働いていたのさ」
「下で?」
「シタで?」
疑問と驚きの声が続いた。
「ある日、おれは王様に直訴した。すると、王様は言った。不敬である、土方の親方にでもなって出直せ、と。で、ここで親方してる訳だ」
「何を直訴したんで?」
「それが・・・覚えてないんだ。職業とスキルを奪われた時、それに関連した記憶が吹っ飛んだみたいで」
うーむ、コンドーは首をひねり、トシゾーを見た。
「おまえ、何か覚えているか?」
「いや・・・・おれは・・・・確か、何かを国王に進言した・・・と思う。そしたら、土方になれ、と言われた。何か思ってたのだろうが、何だったのかなあ」
どんな進言をしたのか・・・記憶に関して、トシゾーは首を振るばかり。
「おまえもか」
コンドーは肩をゆすった。
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