愚考実験

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 私たちは答えを口にした。  「若者」  「中年」  前者は、知夏。後者は私だ。どうやら真逆の答えらしい。知夏の意外な回答に、私は「なんで?」と尋ね、それから続ける。  「才能があっても、性格が悪いんじゃ助けてもしょうがなくない?」  「いやいや、賢子。これから若者が改心するかもしれないじゃん」  「カイシン……?」  何故か片言になった。知夏は頷く。  「そうそう。まだ若いし、あり得るでしょう。逆に賢子はどうして中年を選んだの? ごく普通の冴えない人間なんだよ?」  冴えない、というのは前提になかった気がするけれど。口元に手をやり、私は自信の考えを伝える。  「え。だって若者の方はこれから犯罪者になる可能性もあるしさ」  考えを話して気づいた。そうか。これは可能性について問う思考実験なのだ。良くも悪くも可能性があるのが若者。そうではない、リスクが低い分メリットも低いのが中年。  「賢子は保守的だねえー」  「知夏のは博打でしょ」  私は若者に対してマイナスな可能性を抱いた。一方、知夏はプラスの可能性に賭けた。その点が私たちの違い。どちらが正しいという話では、もちろんない。それが思考実験というものだ。
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