秋のある日のこと

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秋のある日のこと

 アジアとヨーロッパの境界にある海域から、魔法族の者たちだけが出入りできる魔空間が存在する。そこは小さな魔法使いの町がいくつかと、大きな魔法学校が一つを包含する空間だ。魔法学校の敷地内には荘厳な校舎が六つある。その周囲にはさらに三つの寮と、三つの塔が校舎を囲むように――まるで見張るように――建っている。校舎はいずれも魔法魔術の修練をするためのもので、どんな攻撃にも耐えうる強力な魔術を施された石で設計されているという。  魔法使いのこどもは十一歳から通い十八になるまで八年もの間、ここで寮生活を行いながら魔法の使い方や魔力の制御などを修行して学んでいく。 マリアはその魔法学校の五年生だ。今年で十五歳になる。  こぼれそうなほど大きな目には、魔法使いや魔女たちの中でもさらに希少な〈オーロラ〉が宿っている。目の中のオーロラのかがやきが強くなるほど、本人の魔力は増幅する。主に感情で振れ幅が揺れるのだが、魔法を使うときいかにポーカーフェイスで魔力を増幅させられるかが、このオーロラの目を持つ者共通に与えられている試練だそうだ。  フワフワの赤毛を好き放題に伸ばした髪。人間界でもよくみられるような制服をルーズに着こなし、ローブを留めるピンにはオリジナルの魔造ルビーをネコのシルエットにカットしたものを使っている。指定のスカートはひざ上のショート丈で、スカートの下に伸びる細長い足はスパッツで隠れている。  運動神経が飛びぬけていて、さらに本人は大の運動好き。ほうきの試験以外、移動手段は〈走り〉という、魔女としても異端の存在だった。
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